「そう固くなるな。ただの苦労性な奴だ」
「難し……ただの苦労性?」
「逢えばわかる」
軽く言われても、どぎまぎしてきた。どんな人なんだろう――
研究施設の並ぶ遊歩道を歩きついたのは、こじんまりとした住宅街。
研究施設ばかりかと思ったけど、小規模ながらニュータウンのような家が並んでいる。
よくあるのとは違うのは、庭が広いことだろうか。
その中で流夜くんが足を停めたのは『神林』と表記のある建物だった。
流夜くんが扉横のインターホンを押すと秒間もなく勢いよく開けられた。
「うっせえ! 何度嫌がらせ来たら気が済むんだあんたは!」
「いや、今日は初めて来たんだけど」
猛るのは流夜くんと同年くらいに見える男の人。
怒鳴られても流夜くんは平然としていたけど、いきなり怒られて私はびっくりしてしまった。
流夜くんを認めて、その人は「あ」と声をもらした。
「――なんだ流夜か」
そして脱力した。
「今日行くって連絡しといたんだけど。なに? 天科サンでも来てたのか?」
「あー、まあな。悪かったな。で? どうした。いい加減Pクラス受け持つ気になったか? さっさと来い。お前の席はある」
「それは蒼(あおい)の仕事だろ。じゃなくて、恋(れん)さんと剣(つるぎ)さんに逢わせたいやつがいて。蒼に許可取っておいた方がいいかなって」
「………」
流夜くんの影に隠れるようになっていた私はこそっと半歩だけ隣に出て頭を下げた。
突然怒られた警戒心は解けない。誰かと間違えていたようだけど、随分気性の荒い人なのだろうか。
若干目つきが悪――鋭いのに更に怯えてしまいそうになるけど、流夜くんは朗らかに話している。
相手は、私のことを驚いたように見ていた。
そして半眼で口を開く。
「なに? お前、生徒に手ぇ出したのか?」