「ただな。ひとつだけ約束してくれ。これからも、兄さまの傍にいるって。おまえの一番だって。俺はそれ以上、何も望まない。お前さえ居てくれたら、それでいいから」
どうか他人を信じないでくれ。好意を寄せないでくれ。おれを一番に置いてくれ。兄さまをひとりにしないでくれ。
力いっぱい抱きしめてくる兄さまが飛びついてきた。大きい体を受け止められるわけもなく、その場に押し倒されてしまう。
あいてっ、畳に頭をぶつけてしまった。
「にい、さま?」
兄さまがおれの肩に顔を押しつけてくる。
震える声と、じんわりと湿った服の感触で、兄さまが泣いていることを知った。お父さんにもお母さんにも勝った、あの兄さまが泣いている――ああ、そうか。兄さまも、ずっと怖かったんだ。親が、周りの目が、あの家が、とても怖かったんだ。
「だいじょーぶ。兄さま、だいじょーぶ。おれはずっと、兄さまの傍にいます。お約束です」
いつも兄さまがしてくれるように、頭をいい子いい子と撫でた。声を上げて泣き出す兄さまが落ち着くまで、いい子いい子を続けよう。
(神様。どうか、これから始まる二人暮らしを楽しいものに、幸せなものにしてください)
そんな願いを胸に秘めながら、おれは大好きな人のぬくもりに目を閉じ、またひとつ頭を撫でた。