いよいよ、今日は部活の日だ。
「彗、ちゃんと夜先生って呼んでね。私たちが先生の方を見ているときにしてよ。まぁ、流れじゃなくて静かな時がいいかな。」
彗は若干嫌そうな顔をする。けれど、約束は約束だ。私は顔がにやけてしまわぬよう、気をつけなければ…。
「じゃ、これでポスターは完成だね。」
作業が一段落し、皆無言になる。私は彗に目配せし、彗は覚悟を決める。
「…夜先生。」
一瞬空気が凍った気がした。そりゃそうだ、急に男子が先生のことを下の名前で読んだのだから。
肝心の先生の反応はというと…、なんだろう、微妙だ。なんとも形容し難い顔をしている。強いて言うなら驚いていて、かつ、引いている…だろうか。
「っえ、あ、なに、彗。」
あぁ、可愛い。いつもは冷静な先生が、少し焦っている。…あ、彗のフォローしなければ。
「夜先生、か。いいね。先生、私たちも夜先生って呼んでもいいですか?」
先生は、少し間を空けたあと
「まぁ…ご自由に?」
やった。これからは、夜先生と呼ばせていただこう。彩空と目で会話し、喜ぶ。彗よ、よくやった。
「あ、そういえばおやつがあるんだった。」
そういって、夜先生は地学準備室からクッキーを持ってくる。
「はい、2人ともテストよく頑張ったね。詩月は学年1位じゃん。おめでとう。」
やった。先生からおやつをもらえる日が来るなんて。
「ありがとうございます。学年1位取れるなんて思ってもなかったんで、めっちゃ嬉しいです。宇宙が得意な彗にも勝てたし。」
「ねぇ、もうちょっと頑張って欲しかったよね。まぁ終わったことだし、仕方ないけど。これから挽回してもらわないと。」
「まぁ、明後日から冬休みですし、その間に勉強してきます。雑学王になってると思うので、驚く準備だけしててください。」
彗は、宣言した。私も夜先生にいいとこを見せたいから、少し天体に関して学んでおくとしよう。
「そういえばそろそろ彗星が見れるんだよね?」
私はちょうど今朝見たニュースのことを思い出した。
「そうだね。冬休み中だから、見るなら家だね。」
そうなのか。せっかく先生と一緒に見れると思ったのに。彗はそんな私の思いを知ってか知らずか、こんな提案をした。
「冬休み前最後の天体観測しませんか?冬休み中に望遠鏡の使い方を忘れないためにも。」
結局この案は採用され、少し休憩してから屋上で天体観測をすることになった。小腹の空いた私は彩空とコンビニにおやつの調達に行くことにした。
5時過ぎに屋上に出ると、日はほとんど沈み火星や金星、木星などが見え始めていた。なんとなく自分たちの好きな星にピントを合わせつつ、双眼鏡も使った天体観測が始まる。
「彩空、見て金星だよ。」
私は西の空を指差し、ちょっとした感動を彩空に伝える。
「えー、どこ?」
「だから、あっち。グラデーションのマジ真ん中だって。」
この瞬間、夜先生が爆笑する。
「グラデーションのマジ真ん中って。面白いし、いいね。」
私は何か変なことを言っただろうか。私は指示語が苦手で具体的に言って欲しいタイプだから、そうしただけだ。まぁ、笑ってもらえたなら良かった。やはり、笑顔が1番素敵だ。
太陽も完全に沈み、ちらほらと星が輝き出した。
「オリオン座と冬の大三角と北斗七星しか分かんないんだけど。」
そう。私は星を見るのは好きでも、知識が全くない。星座を教えてもらう時は指示語が多いこともあり、なかなか覚えられない。というか、説明されてもどこにあるかいまいち分からない。
「北の方には、カシオペア座が出てるよ。M字型のやつ。」
私は必死に彩空の指先を見る。…あった。これはよく絵とかになっていて見覚えがあったから、すぐに探せた。
「そのすぐ右上側には、ほら北極星のポラリス。」
右上。候補がありすぎて、1つまで絞れない。私は「分かんない。」と言いながら、ちゃっかり夜先生の後ろに回ることにした。
「…あ、あった。」
やっと見つけることができた。夜先生に見惚れないで真面目に星を見つけることができた私は、いい子だと思う。
「じゃ、次は東の空。あの五角形はぎょしゃ座だよ。」
夜先生が右を向いたので、私も右を向く。もちろん、夜先生の後ろにつく。
「わかった。でも、どういう漢字書くんですか?」
「んー、行くに車じゃない?分かんないや。」
そのあとも星団のすばるを教えてもらったりと、楽しい時間を過ごしていると6時を過ぎていた。
「そーだ。おやつ食べよ。」
私はコンビニで人数分のスティックチョコを買ってきていた。みんなに配り、私は封を開ける。
「ありがとう。みんなチョコ食べる時のこだわりってないの?私は口の中が温かい時に食べるのが好きなんだよね。」
そう言いつつ、みんなが食べ始めた空気を読んで、食べ始めてくれる夜先生。口の中が温かい時、か。謎すぎる。けれど、先生のことをまた1つ知ることができて嬉しい。
望遠鏡は1度止め、空を見ながらチョコを食べる。横を見た時だった。私の心臓は高鳴り、目は釘付けになる。暗くてよく見えなかったが、うっすらと月明かりに照らされた夜先生の顔があったから。
それはそれは、とても美しかった。望遠鏡を覗いている時とは、また違った美しさだった。40代半ば。年相応の老け方だと思う。けれどそれは決して悪い意味ではなく、美魔女というべきだろうか。若干老けているのが、また美しい。まるで、女優やモデルのようだ。
この日も結局、7時前まで天体観測をした。その後夜先生と1度も会うことなく冬休みに入ってしまった。
「彗、ちゃんと夜先生って呼んでね。私たちが先生の方を見ているときにしてよ。まぁ、流れじゃなくて静かな時がいいかな。」
彗は若干嫌そうな顔をする。けれど、約束は約束だ。私は顔がにやけてしまわぬよう、気をつけなければ…。
「じゃ、これでポスターは完成だね。」
作業が一段落し、皆無言になる。私は彗に目配せし、彗は覚悟を決める。
「…夜先生。」
一瞬空気が凍った気がした。そりゃそうだ、急に男子が先生のことを下の名前で読んだのだから。
肝心の先生の反応はというと…、なんだろう、微妙だ。なんとも形容し難い顔をしている。強いて言うなら驚いていて、かつ、引いている…だろうか。
「っえ、あ、なに、彗。」
あぁ、可愛い。いつもは冷静な先生が、少し焦っている。…あ、彗のフォローしなければ。
「夜先生、か。いいね。先生、私たちも夜先生って呼んでもいいですか?」
先生は、少し間を空けたあと
「まぁ…ご自由に?」
やった。これからは、夜先生と呼ばせていただこう。彩空と目で会話し、喜ぶ。彗よ、よくやった。
「あ、そういえばおやつがあるんだった。」
そういって、夜先生は地学準備室からクッキーを持ってくる。
「はい、2人ともテストよく頑張ったね。詩月は学年1位じゃん。おめでとう。」
やった。先生からおやつをもらえる日が来るなんて。
「ありがとうございます。学年1位取れるなんて思ってもなかったんで、めっちゃ嬉しいです。宇宙が得意な彗にも勝てたし。」
「ねぇ、もうちょっと頑張って欲しかったよね。まぁ終わったことだし、仕方ないけど。これから挽回してもらわないと。」
「まぁ、明後日から冬休みですし、その間に勉強してきます。雑学王になってると思うので、驚く準備だけしててください。」
彗は、宣言した。私も夜先生にいいとこを見せたいから、少し天体に関して学んでおくとしよう。
「そういえばそろそろ彗星が見れるんだよね?」
私はちょうど今朝見たニュースのことを思い出した。
「そうだね。冬休み中だから、見るなら家だね。」
そうなのか。せっかく先生と一緒に見れると思ったのに。彗はそんな私の思いを知ってか知らずか、こんな提案をした。
「冬休み前最後の天体観測しませんか?冬休み中に望遠鏡の使い方を忘れないためにも。」
結局この案は採用され、少し休憩してから屋上で天体観測をすることになった。小腹の空いた私は彩空とコンビニにおやつの調達に行くことにした。
5時過ぎに屋上に出ると、日はほとんど沈み火星や金星、木星などが見え始めていた。なんとなく自分たちの好きな星にピントを合わせつつ、双眼鏡も使った天体観測が始まる。
「彩空、見て金星だよ。」
私は西の空を指差し、ちょっとした感動を彩空に伝える。
「えー、どこ?」
「だから、あっち。グラデーションのマジ真ん中だって。」
この瞬間、夜先生が爆笑する。
「グラデーションのマジ真ん中って。面白いし、いいね。」
私は何か変なことを言っただろうか。私は指示語が苦手で具体的に言って欲しいタイプだから、そうしただけだ。まぁ、笑ってもらえたなら良かった。やはり、笑顔が1番素敵だ。
太陽も完全に沈み、ちらほらと星が輝き出した。
「オリオン座と冬の大三角と北斗七星しか分かんないんだけど。」
そう。私は星を見るのは好きでも、知識が全くない。星座を教えてもらう時は指示語が多いこともあり、なかなか覚えられない。というか、説明されてもどこにあるかいまいち分からない。
「北の方には、カシオペア座が出てるよ。M字型のやつ。」
私は必死に彩空の指先を見る。…あった。これはよく絵とかになっていて見覚えがあったから、すぐに探せた。
「そのすぐ右上側には、ほら北極星のポラリス。」
右上。候補がありすぎて、1つまで絞れない。私は「分かんない。」と言いながら、ちゃっかり夜先生の後ろに回ることにした。
「…あ、あった。」
やっと見つけることができた。夜先生に見惚れないで真面目に星を見つけることができた私は、いい子だと思う。
「じゃ、次は東の空。あの五角形はぎょしゃ座だよ。」
夜先生が右を向いたので、私も右を向く。もちろん、夜先生の後ろにつく。
「わかった。でも、どういう漢字書くんですか?」
「んー、行くに車じゃない?分かんないや。」
そのあとも星団のすばるを教えてもらったりと、楽しい時間を過ごしていると6時を過ぎていた。
「そーだ。おやつ食べよ。」
私はコンビニで人数分のスティックチョコを買ってきていた。みんなに配り、私は封を開ける。
「ありがとう。みんなチョコ食べる時のこだわりってないの?私は口の中が温かい時に食べるのが好きなんだよね。」
そう言いつつ、みんなが食べ始めた空気を読んで、食べ始めてくれる夜先生。口の中が温かい時、か。謎すぎる。けれど、先生のことをまた1つ知ることができて嬉しい。
望遠鏡は1度止め、空を見ながらチョコを食べる。横を見た時だった。私の心臓は高鳴り、目は釘付けになる。暗くてよく見えなかったが、うっすらと月明かりに照らされた夜先生の顔があったから。
それはそれは、とても美しかった。望遠鏡を覗いている時とは、また違った美しさだった。40代半ば。年相応の老け方だと思う。けれどそれは決して悪い意味ではなく、美魔女というべきだろうか。若干老けているのが、また美しい。まるで、女優やモデルのようだ。
この日も結局、7時前まで天体観測をした。その後夜先生と1度も会うことなく冬休みに入ってしまった。



