次の日学校に行くと、彩空が話しかけてきた。

 「昨日は楽しかったね。そういえば、双眼鏡で桜庭先生見ちゃった。」

 …へっ?羨ましすぎる。それに、

 「うちも見ようとした。たまたまいなくて、見れなかったけど。」

 顔を見合わせて、笑う。私たちは、同じくらい桜庭先生が好きだ。これからも推しについて語っていける、仲良しだと再確認した。

 そういえば、朝から彩空に話しかけられたせいで忘れていたが、今日は水曜日だ。つまり、1時間目は地学だ。

 先生は授業が始まってすぐに昨日の話を始めた。
 「ねぇみんな、昨日の部分月食見た?すごい綺麗だったね。」
 みんなが頷いている。私も、楽しかったことを思い出して顔がにやけてしまう。すると、桜庭先生と目が合った。先生は私を見て、ニコッと笑ってくれた。これは私の自己満足かもしれないが、まるで「私たち4人だけの秘密だけど、昨日は楽しかったね」と語っているようだった。

 先生が可愛すぎて、知らない間に1時間目もあと5分で終わりというところまできていた。ここで、先生が爆弾発言をした。
 「皆さん、来週はテストですが頑張ってくださいね。」
 テスト。定期テスト。すっかり忘れていた。地学の範囲は、宇宙だ。いつもは数学しかできないが、今回は地学も頑張りたい。桜庭先生に褒められたいからと、下心しかないが頑張って損はない。

 「彗、勝負だ。」
 私は、彗に地学のテストの勝負を持ち掛けた。彗は、宇宙の範囲が得意だ。桜庭先生もそれを知っている。つまり、彗に勝てばもっと褒めてもらえる。…と、思う。

 「よし、その勝負乗った。」
 彗は自信満々に言った。絶対に負けたくない。だが、ギャンブラーの私には何か少し足りなかった。

 「何か賭けないとつまらなくない?勝った方が負けた方のお願いを1つ叶えるってのはどう?」

 もちろんリスクはある。けれど勝ったときのメリットは大きい。もし勝ったら以前から彩空と相談していた作戦を実行しよう。


 今日は、テスト前最後の部活だ。かといって、何か変わったことがあるかと言われればない。6時を過ぎ、練習を終えて帰ることになった。

 「赤石先生、少し相談があるのですが。」
 私の声に反応して振り返った先生は、なんだかいつもより機嫌が良さそうだった。
 「天文部と兼部したいんです。週1でも良いので、掛け持ちしてもいいですか。競技カルタも今まで以上に頑張って、大会で結果を残せるように努力します。」
 先生は少し悩んだ後、
 「いいよ。けれど1度決めたからには、どちらも頑張りなさい。」
 私のことを応援してくれた。いつもはとても厳しい先生だが、自分なりの信念を貫き通しているところは尊敬している。
 「ありがとうございます。どちらも精一杯頑張ります。」

 とりあえず桜庭先生と彩空とも話し合って、天文部の活動にはテスト明けから参加することにした。