「ねぇ、理科4科目ごとの発表会があるんだけど出ない?」
 毎週金曜日の6校時にある研究の時間に先生が急に提案してくる。
 「目標があった方がいいとは思いますけど、土壌の研究を発表するんですか?」
 「そうだね。みんな頑張ってくれてるから、優秀賞取れると思うんだよね。優秀賞取れば、2泊で全国大会に行けるよ。今年は鹿児島。」
 鹿児島。先生の出身地。行きたいに決まってる。それに、優秀賞を取ればきっと先生は大喜びだ。
 「出たいです。みんなで旅行行きたい。」
 「まぁ、旅行じゃないけど。行きたいよね。連れて行ってほしいなー。」
 お、おねだり。可愛い。こんなのオッケーするしかないじゃないか。
 「よっしゃ。じゃ、優秀賞目指して頑張ろう。」

 まぁ、優秀賞を取るための研究は簡単ではなかった。あのあと、何回か先生の車で山に行き土の採取を行った。先生の車は何回乗っても心臓がドキドキする。初めて乗った時にはなかった酔い止めが、ドリンクホルダーに現れたのは私のためだろうか。小さな心遣いがありがたい。
 時には、夜に家でリモート会議をすることもあった。先生の部屋の壁紙が淡い水色だったのは印象的だ。なぜなら彩空の部屋の壁紙も水色だったから。私も張り替えたかったが、親から許可がおりなかった。

 連日連夜、寝る間も惜しんで研究をまとめた甲斐あってかなり完成度の高いものができた。あとはこれを発表するだけだ。
 「いよいよ明日が本番だね。今まで一生懸命頑張ってきたんだから、きっと大丈夫だよ。鹿児島目指して頑張ろう。」
 彗の言うとおりだ。私たちはここまでよく頑張った。きっと大丈夫だ。絶対夜先生と旅行に行ってやる。



 「次は、山間部と付近の土壌の違いについてです。」
 アナウンスがかかり、私たちは舞台に上がる。夜先生の「頑張れ」という声援を背中に受けて。

 「ー。以上で我々の発表を終了します。ご清聴ありがとうございました。」
 終わった。めちゃくちゃ緊張した。あがり症に舞台はきつい。
 「みんなよく頑張ったね。すごい良かったよ。」
 疲れ切った体と心に夜先生の笑顔が沁みる。ゼロに近かったエネルギーはかなり回復した。結果発表まで、あと5組。まだまだ油断はできない。

 「今から閉会式を始めます。」
 やれるだけのことはやった。
 「結果発表。… 優秀賞は、山間部と付近の土壌の違いついて。」
 頭がフリーズする。山間部と付近の土壌の違いついての研究は、私たちのだ。ということは、
 「やった。やったー。」
 みんなで手を取り合って喜ぶ。夜先生ともハイタッチ。これで、鹿児島に行ける。1番喜んでくれているのは、夜先生だ。泣いている。先生が泣いている姿なんて初めて見たから、こちらももらい泣きしてしまった。

 帰り道、自転車を漕ぎながら彩空ともう1度喜びを噛み締める。
 「詩月、夜先生とハイタッチできたね。うち、もう2度と手洗わないわ。」
 相変わらずのキモさに張り詰めていた緊張の糸がほぐれる。確かにハイタッチも嬉しかったけれども。
 「鹿児島だよ。先生の故郷だよ。しかも2泊だよ。やばいよ。」
 鹿児島に行くのは、約2週間後だ。夏休み期間中に先生と旅行だなんて。飛行機で行くらしい。飛行機も初めてな私は、旅行が楽しみで楽しみで待っていられなかった。