どんなに辛くても、どんなに打ちのめされていても、明日って日は必ずやってくるんだって思い知った。
憎らしいほど眩い太陽が、群青の中で存在感を放っている。まるで、自分が主役だって分かってるみたい。
変わり映えしない人ごみの間をすり抜けて、極力人間の感情に触れないようにしながら学校を目指した。
普段は何とも感じなかった女子の笑顔とか、男子の笑い声とかが、今では不快でしかない。
黄色い声も、輝いている粒子も、今は視界に入れたくもない。沈んだ気持ちは戻らないまま、新しい1日が始まってしまった。
誰にも気づかれないように、そっと息を吐く。胸の奥を黒く塗りつぶす気体を体外にどうにかして排出しようと、何度も何度も深呼吸を繰り返す。
そして、脈拍が一定になったら目を開いて、彼女がいないか確かめた。周囲を歩くのは、顔と名前が一致しない同級生や、関わりのない先輩。
ああ、いない、大丈夫だって自分に言い聞かせて、私は校舎に入った。平常心、平常心だ。落ち着いて、私なら、できる、大丈夫……。
教室の席について、私は平穏を装って何食わぬ顔で席に着く。誰も、私を見ない。私の心情なんて気にしない。それが、当たり前だけどありがたかった。
人の心って、他人に見られないからいいよね。好き勝手に本音と本心を吐き出せるから。
私は手を膝の上に置いて、じっと入口の方を眺めた。怖いほど鋭い視線を送り続けるものだから、だんだん周囲の人が訝しげな目で私をチラチラと盗み見ているけど、関係ない。
今の私は、彼女だけに注目している。学校に来て、最初は会いたくないと思ってたけど、やっぱり面と向かって話さなきゃ始まらない。
クラスメートが大半やってきて、みんなが席に着き始めたところで、莉央はやってきた。滑り込むように椅子に座るなり、チャイムが鳴る。ギリギリを攻めるのが、最近の彼女の日課だった。
彼女が朝、何をしているのか、どうして遅いのか、明確な理由を尋ねたことはない。だけど、何となく予想できる。
昨日見た光景がまた頭に浮かんで、ぎりっと奥歯を噛んだ。もうしっかりと決断はできたはずなのに、やっぱり胸は痛む。
しっかりしな、自分……!ぐっと息を飲み込んで、自身に言い聞かせる。
後ろ端に座る莉央は、隣の席の女子と仲良く喋りながら、ふと私の方を向いた。そして、一瞬目を見開いて、その後俯いた。
僅かな仕草でわかる。彼女は知っているんだ。私が、見ていたことを。
また、胸の痛みが一つ増えた。ズキリと、針を刺されたような刺激が走る。
だけど。私はわざとそっぽを向いた。彼女と目を合わせないように。別に、腹を立ててるとか、視界に入れたくないとかそんな思いからじゃない。
多分、莉央をこれ以上視界に入れ続けると、決心が揺らいでしまうかもしれないから。折角考え抜いて決めたことを、ここで取り消したくはない。やると決めたらやる、ただそれだけ。