「あ〜、まじ眠い……」
 
 授業の終了を告げるチャイムが鳴り終え、先生が教室から出ていった途端に私は机に突っ伏した。

 ほんと、ただ聞いているだけだからつまらないし、最近の単元は難しくて訳分からない。

 誰だよこんなの考えたやつ。人生において使う場面なんてあんましないくせに。習ったって意味ないじゃん。

 私はそんな、歴史に対する文句を、心の中でぶちまける。

「あははっ、確かにあれは退屈だよねぇー」

 私の目の前に座る莉央が、くるりと振り返って笑った。私は頬杖をついて彼女と対面する。

「先生話長すぎっ」
「おまけに書くことも多いしさ。これなら自分で教科書見て勉強した方が早いかも」
「それな」

 あはは、と私たちは愚痴を言い合って元気を取り戻す。
 
「あ、もう昼食の時間じゃん」
「えっ、あ本当だ」

 周りの動きで今が何の時間かを知る私たち。

「ねぇ、また一緒に食べよう」

 私は普段のように、弁当を取り出しながら莉央を誘った。
 私たちはよく机をくっつけて楽しくおしゃべりしながら食べるのが日課だった。だから、今日もそうやって食べれるかなって、当たり前のように思っていた。
 だけど、予想外の言葉が返ってきた。

「あー、ごめん。今日さ、ちょっと多学年の知り合いに頼まれたことがあって。だから、一緒に食べれないや」
「あ、そうなんだ……」

 珍しい、と思った。同時に、疑った。
 莉央って、他の学年に仲のいい人なんていたっけ?

 彼女は部活にも委員会にも所属しているけど、はっきり言ってその輪の中で親しくやっている人なんて聞いたことがない。
 正直、彼女の言っていることが信じられなかった。

 だけど、顔の前で手を合わせて申し訳なさそうな表情を浮かべる莉央を見ていると疑いたくはなくなって、私は笑った。

「別にいいよ。行っておいで」
「マジ!ほんっとごめんね」
「その代わり、明日はちゃんと一緒に食べてよー。私ぼっちになっちゃうじゃん」
「もちろん!ありがとね」

 莉央は立ち上がって、ドアに手をかける。その間も、幾度となく私の方を振り返っては手を振った。私も笑顔で振り返す。

 ガラガラ、と莉央が教室を出て行ったのを見届けて、私は笑顔を剥がした。代わりに出てきたのは、深いため息。

 やっぱりだ、何でだろう?
 最近、莉央の様子がおかしい気がする。何処かよそよそしいし、私に何かを隠している雰囲気がある。

 一体、彼女はどんな秘密を持っているんだろう。そんなことを考えながら、私は一人寂しく、お弁当の包みを開いた。