簪は鬼灯の形をした橙色のガラス玉の飾りが付けられていて、それが光を反射して誘うように輝く。

美織もそれに目を奪われるも、同時に鬼灯の簪が持つ霊力の凄まじさもしっかりと感じ取り、恐れを抱いた。

瑠花は我慢しきれなくなったのか、ゆっくりと簪に向かって手を伸ばす。その行動に美織は驚き、咄嗟に腕を掴んで制止する。

きちんと祀られてあるものに触れてはいけないという一心で美織が必死に首を横に振ると、肩越しに振り返った瑠花がムッと顔を顰め、美織の手を払い落とす。


「これは元々私の物なの。それを天川家に貸しているだけなんだから、触るくらい別にかまわないでしょ?」


このような簪を、瑠花がつけていた記憶は美織にない。嘘か本当か判断がつかずにいる美織の目の前で、瑠花は躊躇いもなく鬼灯の簪を手に取り、うっとりとした笑みを浮かべた。


「素敵 ……ねぇ、どう? 似合うでしょ」


そして、あろうことか、瑠花は綺麗に結った自分の髪に、その簪を差し込み、満足げにその場でくるりと一回転してみせる。

美織が息をのんだその瞬間、鬼灯色のガラス石にピシリと亀裂が入り、風もない室内で、しめ縄から垂れ下がっていた紙垂(しで)がゆらりと揺れた。

カサカサカサと紙が大きく鳴り響いたことで瑠花も気付き、風が吹き込んでいる場所を探すように訝しげに室内を見回す。

室内に窓はなく、出入りできるのは自分達が入ってきた戸口のみ。風が吹き込んでいるなら、そこからしか考えられないが、戸口の真正面に立っているのに風はまったく感じない。

気味の悪さに言葉も発せられない中で、風が紙垂を切り裂く。続けて、壁に床にと抉るような傷跡をつけた後、半開きになっていた引き戸の扉が、切り刻まれ、ボロボロと、床に落ちていった。

それはまるで、封印されていたものが解放され、室内を逃げまどってから、外へと逃げていったかのようだった。

さすがの瑠花も慌てて髪から鬼灯の簪を外し、不安の表情を浮かべる。

美織も何が起こってしまったのかわからず、落ち着かないまま室内を見回していると、遠くからバタバタとこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてくる。

天川家の人間が、今さっきの気配を察知できないはずはない。足音の慌ただしさから、瑠花はとんでもないことをしでかしてしまったのではないかと美織は不安を募らせた。

不意に無表情の瑠花と目が合った。何を考えているか読めなくて、嫌な予感に美織は思わず身構えたが、突然瑠花に勢いよく体当たりされ、美織は簡単にその場に尻餅をついてしまう。

打ち付けたお尻の痛みより、体当たりされると同時に鬼灯の簪を押し付けられてしまったことに対する動揺が勝り、美織がオロオロしていると、板の間に人々が駆け込んできた。


「何をしている!」