長い石畳を進み、屋敷の大きな玄関にたどり着くと、そこから年老いた女中へと案内が引き継がれる。

女中に続いて、これまた長く、ひと気のない廊下を踏みしめて進む途中で、女中がボソボソと話しかけてきた。


「尚人坊ちゃんの支度が整うまで、柊の間でお待ちください」


美織の前を歩く瑠花は、女中に返事をすることなく、引き戸が半分ほど開いている部屋の前で、何かを気にかけるように足を止めた。

美織はそれに気付き、彼女の視線を辿るように顔を動かす。

瑠花が気にして見ている部屋は板の間で、部屋の奥に飾られている何かが、主張するようにきらりと輝く。


「……柊の間は、そちらではございません」


女中から少し厳しめに声をかけられ、瑠花は「わかっているわ」と返事をした。

その輝く何かへと瑠花が何度も視線を送る様子に美織は嫌な予感を覚えながら、再び歩き出した女中を追うようにその場を離れたのだった。

そして、その嫌な予感が現実のものとなったのは、柊の間に通されて、女中の足音が聞こえ無くなった時だった。


「行くわよ、着いてきなさい」


ここで待っていろと言われたのにも関わらず、瑠花が部屋を出て行こうとする。勝手に歩き回って大丈夫なのかと心配になるけれど、それを美織は瑠花に訴えかけることができない。そして、「早く来なさいって」という彼女の要求を跳ね除けることも、やはりできなかった。

辺りをうかがいながら、忍び足でやってきたのは、先ほど瑠花が足を止めたあの板の間の前だった。


「一度でいいから、鬼灯(ほおずき)(かんざし)を間近で見てみたかったのよね」


瑠花は興奮を隠しきれない様子で、板の間へと足を踏み入れ、奥へ奥へと進んでいく。

彼女が向かったのは、先ほどきらりとした輝きが放たれたそこだった。

鬼灯の簪とはどのようなものなのか気にはなるけれど、美織は室内に入るのが気が引けて、「素敵ねぇ」とうっとりした声で呟く瑠花の姿を戸口から見つめる。

しかし、それに気づいた瑠花が黙っているはずもなく、「あなたもこっちにきなさい」とすぐさま命令を下す。

それでもなかなか動けずにいると、とうとう「美織!」と苛立った声が飛んできたため、美織は嫌々ながらも板の間に足を踏み入れた。

板の間はさらに結界が張り巡らされていたようで、美織は思わず息をのむ。

体感温度が急激に下がり、寒気が止まらない。それでも繰り返し、近くに来るように呼びかけられるため、美織はなんとか瑠花のそばまで近づいて行った。

天井から下げられた小さなしめ縄の向こうに祭壇が設けられていて、瑠花は三宝(さんぼう)の上に置かれた簪に魅了されている。