美織はとんでもないと首を横に振った後、先ほど思ったことを言葉にする。


「魁様も、八雲さんも、霊力を封印しようとすれば、宝玉が耐えきれず粉砕するとわかっていたのですね」

「ああ。最後はわざと捕まり、今のように粉砕させて、絶望の表情を見てから退散するつもりだった」


あまりにも楽しそうに打ち明けた魁に、美織は苦笑いする。そして魁はもうひとつ、秘密にしていた計画を打ち明ける。


「この前話した鬼灯の宝玉を、美織への贈り物にすべく、今、懸命に石を磨いているところだ。心を込めて贈らせてもらうから、楽しみにしていろ」


美織は驚いて大きく目を見開いたのち、にっこりと微笑み、腹部に手を添える。


「はい。この子と共に、楽しみに待ちたいと思います」


ふたりに対し恐れ慄く天川家の人間たちには目もくれず、魁は美織を抱きかかえたまま、屋敷の外へと出た。

そして静かに池の表面へと踏み出すと、夜の闇に包み込まれる様にして姿を消した。




翌月、常世の街を紋付袴姿の花婿と、橙の色打掛を身に纏った花嫁が、多くの祝福の声に包まれながらゆっくりと歩いていた。

可愛らしく編み込まれた花嫁の髪には、鬼灯色の宝玉の髪飾りが添えられていて、それが煌びやかな輝きを放つたび、あやかしたちからうっとりとしたため息が漏れた。


「永遠に添い遂げることを、美織に誓おう」


自分にしか聞こえないくらいの声音で、甘く囁きかけられ、美織は幸せに満ちた笑みを浮かべる。


「私も、これからもずっとあなたのお側に」


交わす言葉はふたりを結ぶ絆となり、やがて生まれる命へと繋がっていく。



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