鬼灯の簪を差し出され、美織は受け取ろうと手を伸ばすが、以前付いてしまった宝玉の亀裂を目にし、動きを止める。

先ほど八雲が言っていた「鬼灯の宝玉に封印するのは難しい」という言葉を思い出して、もしかしてと考えていると、尚人が空いている手で美織の腕を掴んだ。

そのまま引っ張られ、美織はお腹を庇うように前のめりになりながら、床に両膝を打ち付けた。


「何をするのです」


痛みを堪えながら肩越しに振り返った美織は、小部屋に飛び込んできた小鬼を尚人が手で掴み取ったのを目にし、息をのむ。

慌てて立ちあがろうとするも、それよりも素早く、尚人が小部屋を出て、格子戸を閉め、閂までかけられてしまう。


「まだ夜は明けていない。悪いが、先ほどの発言は取り消させてもらう」


「開けなさい」と美織は要求するが、尚人はニヤリと笑うだけで、動かない。


「見つけ出すのも困難だった霊力が、お前のそばから離れないのに気づいてしまったら、こんな絶好の機会を逃すわけがないだろう。うるさい婚約者はいなくなり、霊力は再び俺のものだ」


鬼灯の簪を床に置き、小鬼を掴んだ手を宝玉に添えると、尚人は先ほどとは違う呪を懸命に唱え始めた。なんとか小鬼を宝玉に封じ込めるのに成功し、尚人が喜びに口元を緩めたその瞬間、橙色の光が飛び散った。

鬼灯の宝玉が砕け散ってしまったことに、尚人だけでなく、美織もしばし呆然とする。

美織が「やっぱり」とつい呟くと、尚人は込み上げてきた憤りをぶつけるように、美織を睨みつけた。


「お前、何か細工をしたな! 滅してやる!」


尚人が一心不乱に呪を唱え始めたことで、頭が割れるような痛みを発し始め、美織は頭を押さえて蹲る。「やめて」と美織が訴えかけて数秒後、尚人の声がぴたりと途切れた。


「大人しく印を解くか、もしくは死ぬか」


冷たい声音が響くと共に、室内の温度が一気に下がり、闇が深くなる。

頭痛から解放された美織は、尚人の背後から彼の首元に刃を突きつけている魁の姿を目にし、ほっと安堵の息をつく。

尚人はぐっと唇を噛んだ後、素早く手近の壺を掴み取り、それで魁へと殴りかかろうとする。

しかし、魁の瞳が漆黒の鈍い輝きを放つと同時に、尚人は弾き飛ばされ、背中を壁に打ち付け、そのまま磔にでもするかのように、魁が尚人の首を掴んで壁に押し付ける。

尚人は逃げようともがいたが、魁の手から逃れることはできず、やがて息苦しさから意識を手放した。魁は尚人から手を離し、足元にぐったりと横たわった体を見下ろす。


「くだらない人間よ。欲をかくからこうなる。これからは実力に見合った生き方をしていくんだな」


わずかに肩を竦めた後、魁は格子戸へと体を向ける。すると、小鬼が格子を破壊し、美織との間にあった障害物を排除した。

歩み寄ってきた魁に横抱きにされながら、美織は気まずさと共に謝罪する。


「勝手にごめんなさい。魁様からの初めての贈り物を、どうしても失いたくなくて」

「そのように気にしてくれていたのか。気づいてやれず、すまない」