天川尚人の婚約者に瑠花が早々に決まった背景にそんなことがあったのかと美織は驚き、しかし、それを知ったことで全てがすんなりと腑に落ちた。


「俺は美織のために自分の力を込めたんだ、他の誰かに力を貸す気などさらさらなかったから、少々暴れたが……途中で考えが変わった。美織を迎えに行くまでの十年間、俺の力を利用させてやる代わりに、現世で怨霊を滅する役目を天川家に担ってもらうことにした」


そこで魁は、こっそり秘密を打ち明けるかのように、「だから封印されたかのように装ってやったんだ」と教えてくれた。天川家の祭壇はとても立派なものだったが、途端に全てが陳腐に思えてしまい、美織は小さく笑う。


「あれからもうすぐ十年が経つ。そろそろ美織を迎えに行っても良いかと考えても、お前は両親を失ったことから、あの頃の記憶を丸々手放してしまったようだし、どうしたものかと考えていたんだ」


美織が気まずそうにすると、魁はその必要はないと言うように、優しく美織のおでこに口付けた。


「そうしたら、あの女が、鬼灯の簪を髪にさしたではないか。あれは美織に贈った物だ。美織以外が身につけることは到底許せない。だから、思わず宝玉から出てしまった……しかしあの女は本当に欲深いな。あれから何度も簪に触れようとしてきた。その度追い払っているが」


今まで美織がどれだけ瑠花の態度に理不尽さを感じても、周りはみんな瑠花の味方で、理解などしてくれなかった。だから美織は、魁の言葉に救われた様な気持ちになっていく。


「明日、霊力を呼び戻す際に、鬼灯の宝玉を粉砕させてしまうことにしよう。俺と美織を繋ぐという役目を終えたと言っても、やはり、美織以外の女が、特にあの女が簪を所持するのは気分が良くない」


躊躇いなく、魁がそんなことを言い出したため、美織は目を大きく見開いた。


「あれはお母様の形見なのでは? 粉砕などしてしまってよろしいのですか?」

「ああ、かまわぬ。つい最近、賽の河原近くで立派な鬼灯の宝玉が採取されたからな。それを使って誰の手垢もついていない美織だけのものを作ればいい。だから、わざわざ現世に出向き、回収する必要もない」


持ち主である魁本人にそうはっきり告げられてしまうと、美織は粉砕に関してそれ以上は何も言えなくなる。


「私は、もうたくさんいただいております。魁様のお側にいられるだけで、十分すぎるほど幸せですので、どうかお気になさらずに」


美織の心からの言葉に、魁は嬉しそうに目を細める。


「そろそろ祝言の日取りを決めよう。早く夫婦となろう、俺の可愛い美織よ」


そっと右手に触れてきた魁の手の上に、美織は自分の左手を重ね置いて、にっこりと笑いかける。


「私は本当に幸せ者ですね」