そういうことかと納得した様子で淳一は短く息をつくと、使えないやつだなと言わんばかりに、じろりと美織を見下ろす。あまりにも冷たい眼差しに、美織は体を竦め、改めて平伏する。

確かに昨日、美織は瑠花に命じられて、口紅を買いに走らされた。「これと同じ色を買ってきてちょうだい」と貝殻を模した小さな入れ物を渡されていたため、もちろん美織は蓋を開けて、残り少なくなっている桜色の綺麗な口紅を指差しながら、店主にこれが欲しいと訴えかけた。

実は、美織は子供の頃に両親を亡くしている。その時に出来た心の傷は深く、当時のことはあまり記憶に残っておらず、そこから話すこともできなくなってしまっていた。

そのため、今回も言葉ではなく身振り手振りで要求するしかなったのだが、幸いにも店主は「これと同じ色が欲しいのかい?」と察してくれ、美織は無事に購入することができた。

しかし、今から十分ほど前に、色違いだったことが判明し、美織は瑠花の怒りを一身に浴びることとなってしまった。

意思疎通はできていた。店主が間違えてしまったのだろうかと美織は考えるも、即座に選び取った紅の入った箱を店主がゆっくりと元の場所に戻し、他よりも高く積まれている箇所の箱を掴み取っていたのを思い出す。

時折、美織の方を気にしているような様子もあり、どことなく違和感のある動きだったため覚えているものの、それ以上の引っかかりを覚えることもなく、紅の色を確認せずに店を出てしまったのだ。

もしかしたら、喋れない相手だからと、あまり売れ行きの良くない色を押し付けられてしまったのではと考えてしまい、心が痛みを発する。

美織は顔をあげて、この気持ちを言葉にしたいと試みるが、やはり口をパクパクさせるだけで終わる。そうなると、先ほど同様、瑠花を不快にさせてしまい、美織に平手打ちが飛んでくる。


「お前は本当に役立たずだな。まあ、聞くところによると、叔父さんも浅羽家にとっての汚点だったみたいだし、母親も母親で……」


淳一から、自分の両親の悪口が飛び出したことで、美織は心を閉ざすかのように、吐き出される言葉から意識を逸らした。

美織は、十六年前、父、浅羽宏和と、母、由里子の元に生まれた。しかし、美織が六歳の時、両親が亡くなり、宏和の兄である智彦の元に引き取られたのだ。

淳一たちとは従姉妹であり、れっきとした浅羽家の人間であるのにもかかわらず、美織はずっと女中として扱われ続けていた。

ひとしきり文句を言い終えてすっきりしたのか、淳一はにこやかに瑠花へ話しかけた。


「この前、俺があげた紅を付けていったら良いよ。とっても似合っていたから……って言っても、瑠花は元が良いから、どんな色でも魅力的に見えると思うけど」


淳一に誉められた瑠花はまんざらでもないような顔をする。