一曲弾き終わったところで、八雲がそう言えばと話を切り出す。


「魁様、今日でちょうど半年です。どうせ、捕まえることは不可能ですし、もうご自身の分身を呼び戻してしまってもよろしいのでは」

「待て待て、まだあと数時間残っているじゃないか。しっかり最後まで遊んでやろう」


そこでフワッとあくびをした魁に、八雲は苦笑いを浮かべる。


「油断していると捕まりますよ。まあ仮に捕まったところで、あの鬼灯の宝玉に封印するのは難しいと思いますが」


そこまで聞いて、なんの話か予想がついた美織は口を挟む。


「もしかして、天川家に残してきた魁様の霊力のお話ですか?」

「ああ。半年かけても捕まえられないことに、あの小僧はずっと苛立っている。最初は、こうなったのは簪を勝手に結界の外に出したからだと、美織に激しい怒りを覚えていたが、今はその怒りの矛先がお前の従姉妹に移ったようだ。あの簪をしつこく欲しがっているからな」

「魁様は、お忙しい中、現世に様子を見に行かれていましたのね」


事細かに現状を教えてもらい、美織はしきりに感心する。

八雲と天狗を引き連れてどこかに出かけては、すぐに戻ってきて、そしてまた出かけるという風に、魁は毎日忙しく過ごしている。真夜中でもそれは同じなので、大変だろうなと美織は常日頃思っていたのだ。

しかし、魁はそれに対し、ゆるりと首を振って答えた。


「行ってないよ。……いや、もうすでにそこに居ると言った方が正しいか? 分身を通して現世のことを把握しているんだ。追いかけっこもなかなか楽しいものだ」


分身とは、あの魁によく似た小さな鬼のことで、そんなことができるのも魁様だからこそなのだろうと、美織は彼の凄さを改めて実感する。


「美織が現世に戻ってからしばらくの間、俺はずっと見ていた。両親を亡くして泣いている美織を慰めてやれないあのもどかしさや、常世での俺との思い出を夢とし、忘れていってしまったことは、今思い出しても苦しくてたまらない」


不意をつく様に拗ねた口ぶりでそんなことを言ってきた魁に、美織は「ごめんなさい」と苦笑いで何度目かの謝罪を口にした。

まだまだ完全に全て思い出した訳ではない。しかし、幼い頃、常世に迷い込んでしばらくお世話になっていたことや、現世に戻る際に交わした約束などは断片的であってもちゃんと思い出すことができたと、すでに魁に伝えてある。

「忘れてしまってごめんなさい」と美織が謝罪したとき、「ありがとう。思い出してくれただけで十分だ」と魁は言ってくれたのだが、それから度々こうして彼は美織をからかって楽しんでいる。

魁はニヤリと笑ってから、「あとそう言えば」と話を続けた。


「あの従姉妹が、目を付けていた鬼灯の簪をこっそり持ち出したのも知っているぞ。しかし、簪を持っているところを親に見つかり取り上げられ、その後、強い霊力がこもっていることに気づいた親が、簪を天川家にちらつかせ、差し出す代わりにと娘と小僧の婚約を強引に決めさせた」