美織が魁と結ばれてから、三ヶ月が経った。
恨みつらみが強すぎて現世から魂が離れられず怨霊化してしまい、手をつけられない者たちを捕らえに行く時の魁は、冷酷すぎるほどの美しさを纏っているが、しかし、屋敷に帰れると、美織を「我が花嫁」と呼び、抱き寄せ、ひたすら甘やかす。
そのような魁のあからさまな態度以外にも、時折、美織の瞳が、魁のような蛇に似た瞳孔に変化したり、しばらく不安定だった体調が安定し始めていたりすることに、あやかしたちは気づき始め、祝言が先か、それとも懐妊が早いかという話題で盛り上がっていた。
そして、青空に白い雲がのんびりと漂う昼下がり、美織の主治医を務めている四つ目の女性が、真剣な顔で、美織の腹部に手をかざす。そのかざした手のひらで、もうひとつ目が開き、ぱちぱちと瞬きをする。
四つ目の女性は、すっと手を引き戻すと、にっこり笑って、美織に対し頭を下げる。
「ご懐妊です。美織様、おめでとうございます」
その言葉に、美織は笑顔となり、傍らで様子を見守っていた魁も嬉しそうに口元を綻ばせたあと、しっかりと美織を抱きしめた。
女中たちも手と手をとってはしゃぎ、「おめでとうございます!」と声を揃えて祝福を送った。
「お祝いの宴を開かねば」と魁が立ち上がると、四つ目の主治医は側に置いてあるお茶菓子に手を伸ばしながら、微笑ましげに話し出す。
「美織様は色っぽくなられましたね。まるで魁様のようで、今日だけでも何度か姿が重なって見えたような錯覚に陥りました。魁様のご加護を体内に宿しているだけありますね」
「自分ではよくわからないのですが、最近、よく言われます」
ただ庭を眺めているだけなのに、「魁様かと思いました」と屋敷の者に驚かれることがたびたびあるのだ。
とは言え、朱果の林の老婆の姿を見ているからこそ、交わった相手のように姿形が変化することで、あやかしと化していくのだろうなというのも想像に難くない。
「でも、ご加護というのはしっかり実感しています。ここ最近、つま先から毛先まで、全てに力が漲っているように感じていて、魁様に守ってもらっている様に思えてならないのです」
「あやかしの中でも最上位に君臨される魁様に守っていただけるなんて、なんと頼もしいことでしょう」
その通りだと、美織は頷く。私はなんて幸せ者なのだろうと幸福を噛み締めると、しぜんと笑顔の花が咲いた。
明くる日、尺八だけでなく、実は三味線も得意だと聞き、八雲に弾いてもらうことに。美織は魁に体をもたれさせながら、うっとりと聴き入り、時々、魁と視線を交わしては微笑み合った。