やや間を置いてから、魁は美織の傍らに座り、自分を引き留めた美織の手を両手で包み込んだ。
「それを決めるのは俺ではない。美織、お前自身だ。現世に戻りたいと言うならば、この先しっかりと生活できるように力を貸そう。……もし、ここで生きていくことを選ぶなら、俺は美織を娶りたい」
甘く告げられた望みに、美織の鼓動がとくりと跳ねた。魁は美織の手の甲に口付けて、真摯に請う。
「美織、俺の花嫁になってはくれぬか?」
幸福感と歓喜で美織の胸が満たされ、幼き頃、別れ際に交わしたやりとりを改めて思い返す。
「美織は、魁様のお側にいたいのです!」と声高に叫んで、頬を膨らませた幼い美織の頭を、魁は優しく撫でた。
「俺も美織を自分の手元に置いておきたい。しかしそうするには、お前はまだ幼すぎる。……そうだな。十年経ったら、美織を迎えに行こう。それまで、これを大切に持っておけ」
そう言って魁から渡されたのが、あの鬼灯の簪だった。
「わあ、綺麗! これは何?」
「いつか花嫁となる娘にあげるようにと、亡き母から譲り受けた簪だ。これを頼りに、俺はお前に会いに行く。待っていてくれ、俺の未来の花嫁よ」
もう十分、大人になった美織は、笑顔で魁に返事をする。
「私も魁様のお側にいとうございます。どうか私をお嫁にもらってください」
「そうか。望んでくれるか……十年も待ち焦がれていた。愛おしい我が花嫁よ」
魁も嬉しそうに口元に笑みを浮かべる。ゆったりとした動きで美織へ体を寄せ、そのままきつく抱き締めた。
「体調が優れぬのは、常世の空気が人の美織に合わないせいだ。だからまずは、俺がお前をあやかしへと変えねばならぬ。朱果の管理人から、その方法は聞いているな?」
耳元で告げられた言葉に美織はわずかに頬を染め、緊張気味に頷く。
「……はい」
初々しい反応に魁は笑みをこぼしてから、そっと唇を奪って、さらに美織の頬を赤く染めた。
「すぐに楽にしてやろう」
そう告げて、魁は美織を労りながら、真っ白な褥にその華奢な体を横たわらせ、慈しむように体を重ね合わせる。
深い闇に溶け込むように、美織は魁と一夜を共に過ごした。