「シホルガさん! また荷物に質の悪い魔法がかかっていましたよ! 今回も王宮内に入る前に私たちで対処しましたが! 事前に見つけていただかないと、私たちも困りますわ!」
「も、申し訳ありません……」
その後、アタクシは保安検査場で毎日のように怒られていた。
魔法を見破るなんて簡単だと思っていたけど、全然そんなことはなかった。
まじないをかけても、まったく見分けがつかない。
もっとわかりやすい魔法をかけてきなさいよ。
「キュリティさんのときはこんなことありませんでしたよ! あなたはこの仕事の重要さがわかっていないんですか!」
「……はい、すみません」
お義姉様の代わりにこの仕事に就いてから、ずっと怒られっぱなしだ。
作業をしていたら、周りにいる人たちの会話が聞こえてきた。
「これで何回目かしら? あの人、本当に魔法が見破れるの?」
「伯爵家の口利きだから、私たちも反論できないのよね。ああいう人が一番困るわ」
「魔法に精通しているっていう話だったけど嘘だったわね。むしろ、キュリティさんの方が良かったわ」
微妙に聞こえるくらいの小さな声で陰口をたたいてくる。
アタクシがキッ! と睨みつけると、サッ! と見ないふりをしていた。
まったく、どいつもこいつも。
イライラすると作業も雑になる。
小さな箱を握りしめたら少し凹んでしまった。
「シホルガさん!!」
「はいはい! 申し訳ございませんー!」
他の人たちは数人一組で作業をしている。
力を合わせて、魔法を見破るまじないをかけているのだ。
だけど、アタクシはたった一人だった。
シホルガは大変優秀だから、ぜひ一人で作業を……とフーリッシュ様が伝えたらしい。
本当にあの人は調子がいいんだから!
「……シホルガさん!? シホルガさん、聞いているの! 作業が遅れていますよ!」
「はいはい! 聞いてますー! やってますー!」
そんなこんなで、ようやく終わりの時間になった。
早く帰ってゆっくりしたいわ。
帰ろうとしたら、係長が立ちはだかった。
「じゃあ、私たちは上がりますけど、シホルガさんは残って作業を進めてくださいね」
「え! ど、どうしてですか!? アタクシももう帰りたいですわ」
「どうしてって、あれを見てもわかりませんか!」
「うっ……!」
奥の机には、荷物が山のように残っていた。
しかも、全部アタクシの担当。
時間通りに終わらなかったのだ。
「荷物は明日も明後日もたくさん届くんですよ! あなたはここを倉庫にするつもりですか!」
「そんなことはわかってますわ! アタクシだって早く帰りたいですもの!」
「わかってるのなら、ちゃんと仕事をしてください! そんなんじゃ、いつまで経っても半人前ですよ!」
ああ言えばこう言われる。
何を言っても怒られるので黙り込んでしまった。
職場の人たちは、あ~ヤダヤダとか言いながら出て行った。
アタクシは荷物の山の前に取り残される。
下手したら夜明けまでかかりそうだ。
「ああ~、どうしよう。こんな仕事、適当に終わらせたいわ。でも、また怒られるのはイヤだし」
今日はフーリッシュ様とディナーの約束があったのに。
このままじゃ遅れてしまう。
そのとき、お義姉様の作業風景を思い出した。
一度見学したことがあったのだ。
右から左へ流すように作業していた。
そうよ、適当に……いや、要領よくやらないと終わるものも終わらない。
あんな感じでやればいいのよ。
「これは大丈夫……こっちも大丈夫そうね。これなんか王宮と取引のあるお店だから、問題ないに決まっているわ」
考えてみれば単純なことだ。
荷物には送り主の名前が書いてある。
だから、誰からの荷物かすぐわかるのだ。
たまに書いてないのもあったけど、そんな物はすぐ焼却炉行きだ。
そもそも、普通は荷物に悪い魔法をかけようなんて思わない。
――だって、信用がなくなってしまうんですもの。
そう考えたら気が楽になってきた。
やがて、仕分け作業はあっという間に終わった。
「なんだ、最初からこうすればよかったんですわ……ん? あれ?」
最後にあった荷物から、うっすらと黒いオーラが出ているような気がする。
だけど、目をこすってもう一度見たら消えていた。
なんだ、気のせいだったのね。
まぁ……一応送り主の名前だけ確認しておこうかしら。
「ええっと、どれどれ……こ、これは!」
箱の表面を見ると、公爵家の名前が書いてあった。
だったら安全よ。
一番安心できるといっても過言ではないわ。
他の荷物と一緒に、検査合格のスぺースにまとめた。
ここに置いておけば、明日の早朝には使用人たちが王宮内に持って行ってくれる。
「ふぅ……ようやく終わった。これでアタクシも一人前ね。さあ、さっさと帰ってドレスに着替えないとお店に入れないわ」
そそくさと荷物をまとめて仕事部屋から出る。
早く行かないとディナーに遅れてしまうわ。
部屋から出たとき、わずかに荷物が気になった。
あの箱だ。
――どうしようかな、念のため確認する? いや、今からまじないをかけると時間がかかるし……。
時計を見るとディナーまでもう時間がなかった。
慌てて検査場を飛び出す。
走っていたら不安も消えて行った。
大丈夫よ。
だって、公爵様の名前が書いてあったし。
名前どころか家紋までしっかりと押されていたわ。
公爵なんて偉い人が送ってきたのだから、絶対に問題ないはずよ。
「も、申し訳ありません……」
その後、アタクシは保安検査場で毎日のように怒られていた。
魔法を見破るなんて簡単だと思っていたけど、全然そんなことはなかった。
まじないをかけても、まったく見分けがつかない。
もっとわかりやすい魔法をかけてきなさいよ。
「キュリティさんのときはこんなことありませんでしたよ! あなたはこの仕事の重要さがわかっていないんですか!」
「……はい、すみません」
お義姉様の代わりにこの仕事に就いてから、ずっと怒られっぱなしだ。
作業をしていたら、周りにいる人たちの会話が聞こえてきた。
「これで何回目かしら? あの人、本当に魔法が見破れるの?」
「伯爵家の口利きだから、私たちも反論できないのよね。ああいう人が一番困るわ」
「魔法に精通しているっていう話だったけど嘘だったわね。むしろ、キュリティさんの方が良かったわ」
微妙に聞こえるくらいの小さな声で陰口をたたいてくる。
アタクシがキッ! と睨みつけると、サッ! と見ないふりをしていた。
まったく、どいつもこいつも。
イライラすると作業も雑になる。
小さな箱を握りしめたら少し凹んでしまった。
「シホルガさん!!」
「はいはい! 申し訳ございませんー!」
他の人たちは数人一組で作業をしている。
力を合わせて、魔法を見破るまじないをかけているのだ。
だけど、アタクシはたった一人だった。
シホルガは大変優秀だから、ぜひ一人で作業を……とフーリッシュ様が伝えたらしい。
本当にあの人は調子がいいんだから!
「……シホルガさん!? シホルガさん、聞いているの! 作業が遅れていますよ!」
「はいはい! 聞いてますー! やってますー!」
そんなこんなで、ようやく終わりの時間になった。
早く帰ってゆっくりしたいわ。
帰ろうとしたら、係長が立ちはだかった。
「じゃあ、私たちは上がりますけど、シホルガさんは残って作業を進めてくださいね」
「え! ど、どうしてですか!? アタクシももう帰りたいですわ」
「どうしてって、あれを見てもわかりませんか!」
「うっ……!」
奥の机には、荷物が山のように残っていた。
しかも、全部アタクシの担当。
時間通りに終わらなかったのだ。
「荷物は明日も明後日もたくさん届くんですよ! あなたはここを倉庫にするつもりですか!」
「そんなことはわかってますわ! アタクシだって早く帰りたいですもの!」
「わかってるのなら、ちゃんと仕事をしてください! そんなんじゃ、いつまで経っても半人前ですよ!」
ああ言えばこう言われる。
何を言っても怒られるので黙り込んでしまった。
職場の人たちは、あ~ヤダヤダとか言いながら出て行った。
アタクシは荷物の山の前に取り残される。
下手したら夜明けまでかかりそうだ。
「ああ~、どうしよう。こんな仕事、適当に終わらせたいわ。でも、また怒られるのはイヤだし」
今日はフーリッシュ様とディナーの約束があったのに。
このままじゃ遅れてしまう。
そのとき、お義姉様の作業風景を思い出した。
一度見学したことがあったのだ。
右から左へ流すように作業していた。
そうよ、適当に……いや、要領よくやらないと終わるものも終わらない。
あんな感じでやればいいのよ。
「これは大丈夫……こっちも大丈夫そうね。これなんか王宮と取引のあるお店だから、問題ないに決まっているわ」
考えてみれば単純なことだ。
荷物には送り主の名前が書いてある。
だから、誰からの荷物かすぐわかるのだ。
たまに書いてないのもあったけど、そんな物はすぐ焼却炉行きだ。
そもそも、普通は荷物に悪い魔法をかけようなんて思わない。
――だって、信用がなくなってしまうんですもの。
そう考えたら気が楽になってきた。
やがて、仕分け作業はあっという間に終わった。
「なんだ、最初からこうすればよかったんですわ……ん? あれ?」
最後にあった荷物から、うっすらと黒いオーラが出ているような気がする。
だけど、目をこすってもう一度見たら消えていた。
なんだ、気のせいだったのね。
まぁ……一応送り主の名前だけ確認しておこうかしら。
「ええっと、どれどれ……こ、これは!」
箱の表面を見ると、公爵家の名前が書いてあった。
だったら安全よ。
一番安心できるといっても過言ではないわ。
他の荷物と一緒に、検査合格のスぺースにまとめた。
ここに置いておけば、明日の早朝には使用人たちが王宮内に持って行ってくれる。
「ふぅ……ようやく終わった。これでアタクシも一人前ね。さあ、さっさと帰ってドレスに着替えないとお店に入れないわ」
そそくさと荷物をまとめて仕事部屋から出る。
早く行かないとディナーに遅れてしまうわ。
部屋から出たとき、わずかに荷物が気になった。
あの箱だ。
――どうしようかな、念のため確認する? いや、今からまじないをかけると時間がかかるし……。
時計を見るとディナーまでもう時間がなかった。
慌てて検査場を飛び出す。
走っていたら不安も消えて行った。
大丈夫よ。
だって、公爵様の名前が書いてあったし。
名前どころか家紋までしっかりと押されていたわ。
公爵なんて偉い人が送ってきたのだから、絶対に問題ないはずよ。