「さて、貴様らの所業は説明するまでもないな」
「「うっ……」」

 アタクシは王宮の広場で縛り上げられていた。
 隣ではフーリッシュ様も縛られている。
 目の前には宰相様と王宮の大臣たち。
 どうしてこんな目に遭っているのよ。
 宰相様が口を開いた。

「知っての通り、先日王宮は呪いに襲われた。調査の結果、シホルガ・チェックが見逃した荷物が原因と判明した。公爵家の名を騙って送られてきた物だ」
「えっ!?」

 突如、あの箱が思い浮かんだ。
 薄っすらと黒いオーラが出ていた荷物……。
 まさか、本当に呪われていたなんて。

「保安検査係でありながら呪いを見逃した罪は大きいぞ、シホルガ・チェック」
「い、いや、しかし、大変にわかりにくい魔法でして……」
「言い訳は無用。何を言っても、貴様の罪が軽くなることはない」
「そ、そんな……」

 宰相様はおろか、大臣たちも厳しい目つきを崩さない。
 弁明する気力もなくなってしまった。

「そして、フーリッシュ・エンプティ」

 宰相様に呼ばれるとフーリッシュ様はびくりとしていた。
 この人のことだから、自分は関係ないと思っていたんだろう。

「わ、私がどうしたというのでしょうか」
「貴様がキュリティ嬢を無理矢理辞めさせて、シホルガ・チェックを保安検査係にしたことも知っている。貴様にも同等の罪があるぞ」
「うっ……!」

 フーリッシュ様はダラダラと脂汗をかいている。
 自分だけ逃げようなんて、そうはいかないんだから。
 アタクシは静かにほくそ笑んでいた。

「そ、それは……シホルガに無理やり命じられたのです!」

 と、思ったら、フーリッシュ様はアタクシのせいだと言い出した。

「ちょっと、どういうことですか!? そんなことを言った覚えはありませんわ!」
「わ、私は何も悪くありません! この娘が検査係にしないと殺すと言ってきて仕方なく! ……ぐああっ!」

 フーリッシュ様、いや、フーリッシュのろくでなしに思いっきり噛みついた。
 ふざけんじゃないわよ。
 何が何でも道連れにしてやるんだから。

「ええい、やめないか! 衛兵、取り押さえろ!」
「「こら、離れろ! 見苦しいぞ!」」
 
 衛兵たちがのしかかってきて、地面に押し付けられる。

「キュリティ嬢に対する不当な行いも、とうてい許されることではない。そして、貴様らの行いは皇帝様も全てご存じだ」
「「…………え」」

 こ、皇帝様まで知っているの……?
 あ、あの、“極悪非道の皇帝”が……?
 緊張で心臓がバクバクして倒れそうになる。
 しかも、お義姉様を婚約破棄させたことまで知られているとは。
 ま、まずいですわ。
 どうにかして逃れる術を考えないと。
 必死に考えていると、宰相様が淡々と言った。
 
「処分を言い渡す。貴様らは監獄行きとする」
「「か、監獄……行き……?」」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 か、監獄なんて絶対にイヤよ。
 そんなところに閉じ込められたら、人生が終わってしまう。

「お、お待ちください! アタクシは何も悪くありませんわ! 全部この男のせいです!」
「いえ、違います! この女が全ての元凶です! 私は騙されたのです!」
「もういい、連れて行け」
「「はっ!」」

 懸命に弁明するも、まったく意味がない。
 宰相様が言った瞬間、衛兵たちが集まってきた。
 乱暴に私たちを立たせる。

「ちょ、ちょっと、何をするの! そんなに引っぱったら痛いじゃないのよ!」
「お、おい、離せ! 僕は伯爵家の人間だぞ! こんなことをしていいと思っているのか!」
「「うるさい、いい加減にしろ! お前たちは罪人だ!」」

 そのまま、有無を言わさず監獄に押し込まれた。
 力いっぱい錠をおろされる。

「ここで一生おとなしくしていろ! 死ぬまで出てくるな!」
「お前らのせいで俺たちは死ぬかもしれなかったんだぞ!」
「殺されなかっただけ感謝しやがれ! 大罪人どもが!」

 衛兵たちはひとしきり罵倒すると、あっという間にどこかへ行ってしまった。
 監獄を不気味な静寂が支配する。
 気持ち悪さに思わず身震いした。

「フーリッシュ様、アタクシたちはこれからどうなるのでしょう……」

 伯爵家の力を使ってここから出れないかしら。
 せめてアタクシだけでもいいわ。

「どうしてくれるんだ、シホルガ! 君のせいで僕まで監獄行きになってしまったじゃないか!」

 いきなり、フーリッシュ様が怒鳴つけてきた。
 もう我慢ならない。

「な、何ですって!? アタクシのせい!? アンタのせいでしょうが!」
「いたっ! 噛みつくんじゃない! クソッ、君なんか大っ嫌いだ!」
「アタクシだってろくでなしと結婚なんて願い下げですわ!」

 狭い監獄の中でフーリッシュ様と喧嘩を始める。
 あんなに好きだった婚約者も、今や憎いだけだった。
 髪が乱れるのも構わず殴りまくる。
 噛みつき叩かれしているうち、頭の片隅に一人の女性が思い浮かんだ。
 艶やかな黒い髪に落ち着いた黒い瞳。

――王宮務めがしたかったのなら、お義姉様に頼み込んで仕事を教えてもらえば良かったじゃないの……。

 いくら後悔しても現実は変えられなかった。