私は、いったい何者なのだろうか。この世界は一体どう始まり終わるのか。
 哲学的なことであることはわかっているし、どう頭を回しても結局は"不明"とか"解明不可能"となるのも十二分理解している。
 それでも私は知りたかった。
 今生きている理由。この次元の先。自分の心の正体。
「それじゃあ……、望月」
「は、はいっ……えっと、どこの問題ですか?」
 そう数学の教師に問う。教室に小さくクスクスと笑う声が蔓延る。
「40Pですよ。全く、ちゃんと授業は聞いてくださいね?」
「あはは……すいません」
「では、望月は答えられないから他のやつで答えられるやついるか?」
 私は静かに席に座る。
 これもいつものことだ。そう、これも……。

「おい、望月。ちょっといいか?」
「えっと、何か用ですか?」
 私がそう問うと、突っかかってきた張本人である杉林は何を思ってかピースサインを向けてきた。
 ……どういう意味だ?
「おいおい、俺が言いたいことがわからないか?2万出せっていってんの」
「……えぇ」
 最近お金をせびられることがなかったから心の内の声が漏れてしまう。無論近くにいた杉林は私を睨んできた。
「……まさかと思うが俺の命令を聞けないっていうのか?」
「別にそういうことじゃないよ。ただ、そうやって人に金銭を渡すことを強制してるのが唯々滑稽でね」
 もう最初のため息まがいのものを吐いてしまった時点でもう後戻りはできないことはわかっていた。だから、私は本心で話す。しかし、その強気に出ることを想像していなかった、尚且つ私を弱気だと思っていた人間が約1名。
「は、はは……。放課後覚悟しろよ」
「はぁ……」
 本当に、ただただ本当に面倒臭いな、と私は思う。
 西暦2051年7月29日の、話である。

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「それで指揮長、あれ、しーきーちょー?」
「……んあ、なんだい?」
「全くしっかりしてくださいよ。仮にもこのグループのトップなんですから」
 そう言いつつコーヒー擬きを渡してくる助手。
 味は本物と遜色ないのだが、いかんせん見た目が異常に黒い。
「それで、結界内の人間はいつ頃交流できそうだ?」
「未だに動きはないですね。まぁ仕方ないですよ。数十年で数cm進んでいたら嬉しいな、ってくらいですし」
 定点カメラから送られてくる映像解析を助手に頼んでいたからその詳細を聞くがやはり私の代では解決しようはないらしい。
「ったく。この世界は一体何を作りたくてこんな事象を引き起こしたのだか」
 時空間の歪みによる時間経過の相違問題、我々はこれを事象-Bと呼称しているこの問題は現在全精力を挙げて解決に向かわすことが協定で決められた。
 これは西暦4250年X月7日の、話。
 事象-Bの世界の2000年ほど先の、世界である。