「だ……だめだ……わたし、流夜くんにはお菓子はあげられない……」

本気で落ち沈む。反対に笑満の声は少し元気が戻っていた。

『作らないの?』

「あげたって殺人お菓子だよ……」

『流夜くんならなんでも喜びそうだけど――バレンタインどうするの? チョコでなくてもお菓子じゃない?』

「……はっ!」

『咲桜が料理上手なのは周知なんだから、流夜くんも期待してるんじゃない? まだまだ先だけどさー』

「……のり」

『のり?』

「海苔で黒さを出してなんか作るのはどうだろうか……? こうご飯に巻いたりして……」

『アウトー。甘さがないよ、咲桜。全体的に。そしてそれはただのおにぎりだよ』

言われて、息を呑んだ。確かにただのおにぎりだった。

『夜々さんがいれば、まあ大丈夫なんだっけ?』

「大丈夫なのは私のメンタルだけで、お菓子作りの腕はない」

キリッとした顔で情けないことを言う。

いつの間にか私は正座して、瞑想でもしていそうな格好になっていた。

『咲桜のそれはトラウマだからねー』

「……申し訳ない……」

頭を下げた。が、下げた先は壁しかない。

私は、料理はすきだけれど、ことお菓子作りは苦手だった。

反対に笑満は、料理は私に教えを乞うてくるくらいだけど、お菓子作りが得意で私のお菓子作りの先生でもあった。

私のこの苦手分野には、桃子母さんが絡んでくる。

周りには、「料理と違って目分量で出来ないのが苦手」と言い張っているけど、本当のところは爆発させた過去があるのがトラウマになっている。

私がまだ小さい頃、桃子母さんと一緒にお菓子を作っていて、レンジの中で爆発音が響いたことがある。

幸い周囲に被害はなかったけれど、もう形がなんだかわからないブツを片手に二人して半泣きで夜々さんに助けを求めた。

……以来、お菓子作りは私の苦手分野。

また爆発したらどうしようと焦ってうまく手が動かなくて。

助けてもらった記憶もあるから、夜々さんがいればそういった焦りはあまりないのだけど……。