「それにしては浮かない顔だな?」
「あー、うん」
いただきます。遙音は打ち明けるより先にカップを手にした。
「……笑満ちゃんが、泣いたんだ」
「松生が?」
そりゃ泣くくらいあんだろ。そう言うと、遙音は軽く首を横に振った。
「なんつーか、――ああごめん時間くれ!」
頭抱えて突っ伏した。時計を確認する。時間……吹雪のところは、遅れても大丈夫。
遙音に「勝手にしろ」と言って、仕事――私事用のパソコンを開く。
仕事面でも公私の区別はある程度つけておかないと危ないから、仕事用のパソコンは二台用意して使い分けていた。
言っても、家に持ち帰り仕事をすることはないので、家で開くのは私事用の方だけだ。
遙音がローテーブルに突っ伏して唸っているので、放っておいて本棚に資料を取りに行く。
帰ってくると、今度は鞄を抱き込んで唸っている。まあなんだ……がんばれ。
「……神宮って咲桜に泣かれたことある?」
「咲桜に? ……怒らせてばかりだな」
「お前雲居と大差ねえな」
「あれよりはしっかりした関係なつもりだ。と言うか――咲桜の通常反応に『泣く』がないんだよ」
「……通常反応?」
「状態反応かな。咄嗟のことが起こって、咲桜は怒ると嬉しがるのどちらかしか持っていないように見えた」
「そりゃまた極端な……」
「大抵はいつも泡喰って焦りまくるんだけどな」
「……ちっ、惚気うぜえ」
「――で。お前は何をそんなに困っている」
困っている。遙音は困って泣きついて――ではないけど、困りきってここへ来たのだろう。
「……笑満ちゃんを困らせてた……」



