朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】


「それにしては浮かない顔だな?」

「あー、うん」

いただきます。遙音は打ち明けるより先にカップを手にした。

「……笑満ちゃんが、泣いたんだ」

「松生が?」

そりゃ泣くくらいあんだろ。そう言うと、遙音は軽く首を横に振った。

「なんつーか、――ああごめん時間くれ!」

頭抱えて突っ伏した。時計を確認する。時間……吹雪のところは、遅れても大丈夫。

遙音に「勝手にしろ」と言って、仕事――私事用のパソコンを開く。

仕事面でも公私の区別はある程度つけておかないと危ないから、仕事用のパソコンは二台用意して使い分けていた。

言っても、家に持ち帰り仕事をすることはないので、家で開くのは私事用の方だけだ。

遙音がローテーブルに突っ伏して唸っているので、放っておいて本棚に資料を取りに行く。

帰ってくると、今度は鞄を抱き込んで唸っている。まあなんだ……がんばれ。

「……神宮って咲桜に泣かれたことある?」

「咲桜に? ……怒らせてばかりだな」

「お前雲居と大差ねえな」

「あれよりはしっかりした関係なつもりだ。と言うか――咲桜の通常反応に『泣く』がないんだよ」

「……通常反応?」

「状態反応かな。咄嗟のことが起こって、咲桜は怒ると嬉しがるのどちらかしか持っていないように見えた」

「そりゃまた極端な……」

「大抵はいつも泡喰って焦りまくるんだけどな」

「……ちっ、惚気うぜえ」

「――で。お前は何をそんなに困っている」

困っている。遙音は困って泣きついて――ではないけど、困りきってここへ来たのだろう。

「……笑満ちゃんを困らせてた……」