「もううちの生徒もほとんど知らねーかな。藤城と桜庭――こいつらの出身って桜庭学院なんだけど――って、なにかといがみあってんじゃん? 確か創立者同士の因縁だっけ? んで、こいつらが高校に在籍した三年間、藤城は一度も桜庭の三人を抜くことが出来なくて、あと、こいつらが優秀過ぎて桜庭でも埋没した優秀な生徒が多くて、『悪夢の三人』とか呼ばれてんの」

「あ、あたしそれ知ってます」

笑満が挙手して答えた。笑満は、学年主席の頼に次ぐ成績を誇る。……その点、私は一人大分後ろにいるんだけど。

「『悪夢の三人』? って言うの?」

私が首を傾げると、笑満はうんと肯いた。

「位置的には桜学(さくがく)の初代Pクラスみたいな感じかな。あっちはクラスとして設立されていたけど、悪夢の三人は特別な位置ではなかったですよね?」

「まーね。周りが勝手に言ってるだけだし」

降渡さんが困ったような顔で応じる。

桜学(さくがく)――私立桜宮(さくらのみや)学園。

藤城や桜庭よりも規模の大きな、全国区の進学校だ。

Pクラスというのは、進学校にある特別クラスと同じようなものだ。

ただ、これは自薦他薦の試験ではなく、桜学の教師によってPクラスに配されるのだと聞く。

……実は流夜くん、そこの知り合いの先生からも桜学に来ないかと誘われているらしい。

「それで――降渡さんは一つ下の学年に入ったんですか?」

「そ」

「非難罵倒がすごかったよねー。僕と流夜までとばっちりだったし」

「すまんかった」

降渡さんが謝るけど、吹雪さんは特に意に介さない。

「気にしてないけど。遙音も桜学から誘いあったんでしょ?」

「そうなのっ? いや、遙音くんだったらあって当然か……」

「当然ではねーよ。言われても、神宮が藤城初任の年だったから、話蹴るの迷いはなかったけどな」

「さすがだねー」

笑満が先輩を見る目は尊敬の眼差しだ。先輩は少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。

……その様子から、笑満の気持ちは、先輩以外への周囲にはだだもれのようだった。

降渡さんと吹雪さんは楽しそうな顔をしている。