「………」
在義さんもなかなか業な生まれだ。少し――補足情報を調べるために、暇があったら天龍に帰るか。
咲桜を連れて……は、どうだろう。立場上、すぐには実行出来そうにない。
……だが正直、天龍の郷の知らない顔に好奇心が騒いでいるのも抑えられない。
「………」
そして今は――遙音と松生だ。
アパートに帰ると、思った通り、遙音がいた。駐車場のガードレールに腰かけて夜空を見上げている。
……腹を決めたのか、腹を括ったのか。
「遙音」
呼ぶと、透明な瞳が流夜を見た。
「あれ。てっきり華取さんとこに泊まってくんのかと思った」
「思ったらお前、ここにいないだろ。中入れ。風邪ひくぞ」
部屋の鍵を開けると、遙音は軽い足取りでやってきた。
「入りまーす」
実は。
咲桜が明日の朝ごはんとお弁当! と言って持たせてくれたものがある。
遙音がここにいそうだという話はしてこなかったので――今、咲桜の頭の中が幸せな松生でいっぱいで、そこに少し物憂い顔の遙音を入れるのは忍びなかったので――きっちり二食分だ。
元々朝食は摂らないのから、一つは遙音に出すつもりだった。明日咲桜には謝ろう。
「松生と付き合うんだって?」
「! ……どこでそれを、って――咲桜か」
「ああ。ものすごく嬉しそうだった」
遙音は、やっちまったー、と片手で顔を覆った。
「なんだ? 誤解なのか」
遙音の分もコーヒーを用意した。
既に床に直に座り込んでいるので、テーブルに置いて俺もソファに腰を下ろす。
「いや、誤解じゃねえんだけど……」



