朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】


「………」

在義さんもなかなか業な生まれだ。少し――補足情報を調べるために、暇があったら天龍に帰るか。

咲桜を連れて……は、どうだろう。立場上、すぐには実行出来そうにない。

……だが正直、天龍の郷の知らない顔に好奇心が騒いでいるのも抑えられない。

「………」

そして今は――遙音と松生だ。

アパートに帰ると、思った通り、遙音がいた。駐車場のガードレールに腰かけて夜空を見上げている。

……腹を決めたのか、腹を括ったのか。

「遙音」

呼ぶと、透明な瞳が流夜を見た。

「あれ。てっきり華取さんとこに泊まってくんのかと思った」

「思ったらお前、ここにいないだろ。中入れ。風邪ひくぞ」

部屋の鍵を開けると、遙音は軽い足取りでやってきた。

「入りまーす」

実は。

咲桜が明日の朝ごはんとお弁当! と言って持たせてくれたものがある。

遙音がここにいそうだという話はしてこなかったので――今、咲桜の頭の中が幸せな松生でいっぱいで、そこに少し物憂い顔の遙音を入れるのは忍びなかったので――きっちり二食分だ。

元々朝食は摂らないのから、一つは遙音に出すつもりだった。明日咲桜には謝ろう。

「松生と付き合うんだって?」

「! ……どこでそれを、って――咲桜か」

「ああ。ものすごく嬉しそうだった」

遙音は、やっちまったー、と片手で顔を覆った。

「なんだ? 誤解なのか」

遙音の分もコーヒーを用意した。

既に床に直に座り込んでいるので、テーブルに置いて俺もソファに腰を下ろす。

「いや、誤解じゃねえんだけど……」