「勿論、嫁ぐ娘を持つ身だからね。……咲桜はたまに、愛される自分を拒絶する。もし君に対してそんな反応があれば、私は君を咲桜の伴侶と認めるのを躊躇しなければならなくなる」
―――――。それは俺も知っている、咲桜の一面だ。
「―――。そこまでは心配なさらないでください」
「―――」
ふと、在義さんが顔をあげた。その瞳で意味を問うてくる。
「それは、俺と咲桜が解決する問題です」
「……ほんとーに減らず口だね」
「否定はしませんが。……咲桜が在義さんに泣きつくようなときは、そのような心配をしていただければ、と」
「……そんなことあるわけないだろう――」
急に、在義の声が硬くなった。それまでのからかいの色がなくなる。
「あの子は、私に我儘も言わないし泣いたこともない――。自分の出生を、ずっと知っているからか……」
ギッと睨まれた。
「だから君がむかつくんだよねえ」
「俺ですか? ……どこまで睨まれてるんですか」
「睨んでいると言うか――……まあいい。それで? 話は還るが、うちに来ない弁明でもしてもらおうか?」
一転、俺をからかう――いじめるのを――楽しんでいる在義さんだ。………。
「………在義さん、俺らの現状わかって言ってますよね?」
「ん?」
旧縁の宮寺琉奏の来訪。そしてこのタイミング――。
「まさか――宮寺を送り込んだの在義さんですか?」
「そんなことしてないよ。――私は」
最後を強調した。
「………」
またか。
愛子か。
どんだけ暗躍するんだあいつ。
「何がしたいんだ……」
俺は頭を抱えたが、在義さんはこともなげな様子だ。



