朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】


「勿論、嫁ぐ娘を持つ身だからね。……咲桜はたまに、愛される自分を拒絶する。もし君に対してそんな反応があれば、私は君を咲桜の伴侶と認めるのを躊躇しなければならなくなる」

―――――。それは俺も知っている、咲桜の一面だ。

「―――。そこまでは心配なさらないでください」

「―――」

ふと、在義さんが顔をあげた。その瞳で意味を問うてくる。

「それは、俺と咲桜が解決する問題です」

「……ほんとーに減らず口だね」

「否定はしませんが。……咲桜が在義さんに泣きつくようなときは、そのような心配をしていただければ、と」

「……そんなことあるわけないだろう――」

急に、在義の声が硬くなった。それまでのからかいの色がなくなる。

「あの子は、私に我儘も言わないし泣いたこともない――。自分の出生を、ずっと知っているからか……」

ギッと睨まれた。

「だから君がむかつくんだよねえ」

「俺ですか? ……どこまで睨まれてるんですか」

「睨んでいると言うか――……まあいい。それで? 話は還るが、うちに来ない弁明でもしてもらおうか?」

一転、俺をからかう――いじめるのを――楽しんでいる在義さんだ。………。

「………在義さん、俺らの現状わかって言ってますよね?」

「ん?」

旧縁の宮寺琉奏の来訪。そしてこのタイミング――。

「まさか――宮寺を送り込んだの在義さんですか?」

「そんなことしてないよ。――私は」

最後を強調した。

「………」

またか。

愛子か。

どんだけ暗躍するんだあいつ。

「何がしたいんだ……」

俺は頭を抱えたが、在義さんはこともなげな様子だ。