朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】


「そう言えばさっき桃が見えたような気がしたんだけど――」

「あ、写真。出してた」

「ああ、これか」

咲桜が勢いで持ってきてしまった写真を在義さんに渡すと、在義さんは優しく目を細めた。そのまま、咲桜はキッチンに向かう。

「夜々ちゃんのおかげかな。咲桜は大分強く育ったねえ」

「箏子師匠の所為もあると思うよ」

朝間箏子。朝間先生の母で、咲桜に行儀作法と武術を教えた師範だと聞く。

一度だけ逢ったことがあるけど、なんか俺、敵視されている気がした。

「ああ……箏子先生は祖母っていうより師匠だよねえ」

「って言われても私どっちもいないからおばあちゃん感覚とかわかんないよ? そもそも――私と桃子母さんをゆるしてくれたかも」

……在義さんの両親は、桃子さんが現れる前――まだ在義さんが学生の頃に他界しているらしい。

在義さんはあまり自身の身の上話はしないのから、俺も初耳な内容がちりばめられている。

咲桜がお盆にお茶碗を載せてきて渡してくれた。

「大丈夫だったと思うよ。そもそもって言ったら、私もこの家の実子じゃないし」

「「……え?」」

咲桜も俺も、聞いたことのない話に大きく瞬いた。

「まあ家の事情だから言ったことなかったけど、ここは華取の分家の一つでね。私は生まれてすぐに本家から養子に出されたんだよ」

養子? これも初めて聞く。

「そう――なんですか?」

「そうだよ。と言うか、生まれた家は天龍(てんりょう)だから、龍生とは同郷なんだよ」

だからあれと顔見知りなんだ、と付け加えた。

「でも――天龍に華取って名前の家、ありましたっけ?」

俺も一応、龍さんの祖父の許――天龍という土地で育っているが……。

「いや、今はないね。私が養子に出されてすぐに本家まるごと火事で焼け落ちたんだ。本家筋の人間もそのときに亡くなっているから、実質華取の家はもうない。嫡出で直系は、今は私だけだ」

咲桜は何度も瞬いている。