朧咲夜3-甦るは深き記憶の傷-【完】


「そりゃもう! 在義父さんの評判は流夜くんも知っての通りだけど、桃子母さんの可愛さたるやないからね! 色々覚束ない感じだったんだけど、だからいろんなことに一生懸命で、すっごい――がんばってたの」

がんばって、か……。突然やってきた華取在義の妻と認められるためにも。在義さんと咲桜のためにがんばっていたんだろう。

「……咲桜は桃子さんにも似てるんだな」

「そう、かな? そう言ってもらえると嬉しいけど。あっ、写真あるよ! 取ってくる」

するりと腕を離れて、机の上の写真立てを持って来た。

「それ、松生じゃないのか?」

写真立てに収まっているのは、中学生の咲桜と松生だ。

「卒業式で頼が撮ってくれたの。あいつ、撮られる方は苦手だからっていって、結局自分のは集合写真しかないんだ」

「らしすぎるな」

でもそれでいいんだってさ。そう言いながら、かぱりと裏蓋を開いた。

「どういう風に扱っていいのか――私がどう扱うべきか、ちょっとわからなくて。でも遠くへは置けなかったから、ここにあるの」

二枚重ねの写真。咲桜と松生の下に、家族三人の写真。隣り合うように座って、それを見せてくれた。

「これがね、春にここの庭で撮ったやつ。私が三歳のときだって。在義父さんはあんま変わってないね。桃子母さんは――」

「かわいい……」

ぽつり、思わずつぶやいた。咲桜は、え、と顔をあげた。

「だよね! 可愛いよね、桃子母さん! やっぱ流夜くん趣味合うー!」

何故か咲桜が歓喜している。

「え、何が?」

俺から返ったのは間の抜けた返事だった。なんだって?

咲桜がでれでれに喜んでいる意味がわからない。