「絆さんは降渡さんのこと、信じきれてない、の?」
「そう……なのか? 降渡のことを、軽薄な奴の言うことなんか信じられるか、って突き放したりもする。癖に、傍から離れない」
「そっか。……でも、それは降渡さんの失態だと思うよ。『軽薄』、って認識されてしまうところ」
「……厳しいな」
「誤解されることをしたら、それはダメなことだよ。一度裏切られたら、どれほど謝られたって、優しくされたって、癒える傷ばかりじゃないんだから――」
「咲桜?」
突然声が沈んでいくのを見て取り、咲桜の頬に手をあて少し上向かせた。……瞳が潤んでいる。
「誰の話をしている?」
「―――」
咲桜ははっと息を呑んだ。手が離れる。
「……すまない。いきなり」
咲桜はまた少し顔を俯けて小さく首を横に振った。
「……自分の、話……」
「………」
「私と母さんのこと、ここの近所の人、知ってるから。母さんの身元がわからないこと、とか、……父親がわからない、こととか。……みんなが夜々さんみたいな人じゃない、から……」
どれほど俺を敵視しようと、俺に敵視されようと、朝間先生の存在は咲桜にとって特別なのだとわかっている。
……これは、その理由の一端か。
「……中でも、箏子師匠(ことこせんせい)は――……って! な、何言ってんだろ。ごめんね、降渡さんの話だったよね」
「咲桜。一つ言っておくぞ?」



