思わず俺の声が上ずっていた。
遙音は、「咲桜に言わねーようにだよ」と付け足した。
「話しておかねーと頼に何されるかわかんねえからな。あいつ、下手に首突っ込んで戻れないとこまで深入りしちまうタイプだろ」
「ああ……お前にそっくりだな」
「……俺と並べるなよ」
遙音、心底嫌な顔をした。
遙音も、首突っ込んでもう戻れないほど深入りしてしまっている。
――本当なら、俺たちの方ではない世界だってあったのに。
俺らはそれを自戒している。
遙音はそれを知って、それでもここにいる。
「……遙音、お前なんで咲桜のこと名前で呼ぶんだ?」
「あ? 名前で呼ばねーでどうすんだよ」
「そうじゃない。お前、大概は苗字で呼ぶだろ」
「あー。……って言われても、華取って言ったら華取本部長になるじゃん? なんか俺の中では『華取』って名前はあの人しかいねーから」
「………」
――咲桜の家庭のことは少し話したが、咲桜と在義さんの血縁関係については、遙音は深くまでは知らないはずだ。
「あー、華取さんが出て来たついでに。お前さ、華取さんと咲桜を引き離すような哀しい真似すんなよ? いくら咲桜に惚れてるからって」
「……出来ねーよ」
答える声は小さい。
もう、俺も遙音も親はいない。
咲桜と在義さんは血の繋がった親子ではない。
けれど。
だからこそ。
「……咲桜も大概ファザコンだからな。在義さんところに逃げられたら嫌だからそんなことはしないと思う。……たぶんな」
「そこは言い切ろうよ。お前咲桜のことになると自信なくすのな」
「……悪かったな」
「いーよ。やっとお前が人間に見えて来たから。じゃーな。愛妻弁当しっかり食えよ」
「………遙音」
睨むと、遙音は軽く笑った。
「宮寺の動向見ながらだけど、学内でも伝聞役くらいしてやるよ」
「……手間かけるな」
「気にすんな。前提、俺はお前らの味方だから」
じゃーな。言って、遙音は出て行った。
しかしあいつ、気が利き過ぎだろう……。
宮司が来る日でないとはいえ、咲桜に学内では逢えないと言ったら弁当届けてくれるって。
遙音とは年齢も離れているし、立場的には親代わりだ。
けれどどうしてか、俺たちと遙音の間にあるのは、対等、だった。
友人とか、そういう名前はつかない。