私は意図的に話をショートカットした。

一度だけ、抱き付かれたまま寝かせてあげたときのことだ。流夜くんがその名を口にしたのは。

そして、何故か空気が重くなっているのを感じた。先輩までどこか沈んでいる。

雰囲気がおかしいのを悟った笑満と顔を見合わせてしまった。

「美流子さんはね、……望める、流夜の唯一の家族かもしれない人なんだ」

「ふゆ」

「流夜からわざわざ口にしたい内容とも思えないよ。だったら僕らから言っちゃった方が流夜にも咲桜ちゃんにも受け止めやすいでしょ」

そう言われて、降渡さんは引き下がった。

望める、家族……?

「二十五年前の神宮一家殺人事件。生存者は流夜だけとされているけど、実は行方不明者もいるんだ。神宮美流子(みるこ)。当時十歳。流夜のたった一人の姉弟。お姉さんだ。……現場や付近に遺体なく、今までにも確認されていない。流夜、たまに『探しものがある』って言うでしょ? 美流子さんのことなんだよ」

「――――」

みるこ――神宮美流子。

吹雪さんが手帳のその字を示してくれた。

「今も行方不明扱いの姉を、流夜はずっと探してるんだ。……もう亡くなっているかもしれない。犯人に連れ去られた可能性が一番高いからね。その人を探して、今も流夜は生きているんだよ」

「………」

私の瞳は手帳の字に停まったままだ。

流夜くんが警察に関わり続けている理由の一つ。その対象まで教えてくれたことはないけど……。

「―――」

無性に、流夜くんに逢いたくなった。

「……犯人は、捕まってないんですよね」

私の呟きに、隣の吹雪さんが肯いた。

「うん。でも、時効撤廃に間に合ってね。もし犯人が見つかれば、逮捕、刑事裁判にはかけられる」

刑事裁判。

流夜くんは、生まれた時から事件の中を生きている――。