「………」
「ください、とかねーの?」
「……作ってくれたのは咲桜だろう」
イライラから眉間がつりそうだ。遙音の顔は今にも吹き出しかけている。
「でも持ってきてやったのは俺だけど?」
「………咲桜の弁当ください」
……不承不承ながら、本心に反してついに遙音に敬語を使った。
遙音、臨界点を超えたらしい。
「ぶははははははっ! おめーどこまで咲桜に弱―んだよ! お前が俺にんなこと言うなんてアホみてー!」
「黙れ! いいからさっさと寄越せ!」
ずかずか歩いて腹を抱える遙音から弁当の袋をひったくった。
「くそっ、やっぱさっさと教師辞めるかな……」
その小さな声が聞こえたらしい遙音から笑いが収まった。
「それ困んだけど。俺、お前がいるからここ入ったんだし」
元いた椅子につく。遙音は机の前に立って、腕を組んだ。
「お前が教師にならなかったらなかったら、さっさと働くつもりだったって言っただろ」
「そうだが、お前もう勝手よくやってけるだろ? ここで。むしろ旧知の俺がいる方がこの先問題になるかもしれない」
俺の声も遙音の声も、マジメだった。
「それでもまだ困る。辞めるつったらお前、次は警察関係の仕事か、大学とかの研究機関だろ? だったら俺が進学するまで待て」
「今年度いっぱいで辞める気ではいるが?」
「はあ⁉ おま……もしかして、咲桜のためか?」
遙音が机に手をついて身を乗り出してくる。
「当然。俺が教師でなかったら、弊害は少し減るだろうからな」
「うっわ重症……まーそんだけお前が本気ってことか」