「だ、だってそしたら頼と二人になっちゃうよ? 流夜くん知ったら怒るよ?」
きっと絶対! と、笑満は同意を求めるように先輩に目線をやった。
……でもさ、先輩って結構流夜くんのことからかうの好きみたいだから、からかって終わりじゃないかな。
そもそも、先輩は笑満と二人きりがいいんじゃないのかな。
……先輩のもにょもにょした目がそう言っている。
「あー、だな。この前も淋しさ爆発させてたし。咲桜がよければ俺がこっちに入りたいんだけど」
そう言うから、「そうですか?」と肯いておいた。
先輩から逢いに来てくれたっていう、これが重要だと思うんだよね。
「ね、遙音くんって流夜くんの高校時代とか知ってるんでしょ? どんなだったの?」
私に封をされた包みをまた開いて、笑満が言い出した。
先輩はベンチの、笑満のすぐ近くに座る。手にした袋にパンが詰め込まれていた。
笑満が振った話は、これこそ私へのお返しだろう。
……どちらの意味のお返しかは、推測だけだけど。
「あいつの学生時代? んー、いっつも無表情で怒ってるのかなーって、怖い感じ。笑ったとこなんて一度も見たことなかったな」
だから今のあいつが本物か信じらんなくなるときあんだよ……。
先輩は哀愁を帯びながら視線を遠くへやった。
え、なんかごめんなさい。心の中で謝った。
「それは……今と全然違うね」
笑満は、私に接する流夜くんと神宮先生を思い出しているのか、うわ言のように呟いた。
「高校時代って、あいつが一番ピリピリしてた時期なんだって」
「? やなことでもあったんですか?」
私が訊くと、先輩は唸った。頼はまだ固まっている。……本気で寝てるんだな。
「雲居たちに聞いたんだけど、あいつらが中学を卒業して高校に入るまでの間に、育ててくれた二宮さんのお祖父さんが亡くなったんだって」
「あ……」
引き取り手のなかった流夜くんを育てたのは、在義父さんの相棒であり、元警官である二宮龍生さんのお祖父さんだと聞いた。
猪を鍬(くわ)で狩るようなご老人だったそうだ。
「雲居も二宮の祖父さんとこで育ってるけど、あいつは家族の記憶あるから、やっぱ違うんだろうな。神――あいつの方は、疎まれていた親戚しか知らないから。……家族みたいに育ててくれた唯一の人が死んで、焦ってた、って言うのかな。たぶん、早く逢いたかった気持ちが強かったんだと思う」
唯一存在するかもしれない、家族――姉に。
「流夜くんって、桜庭生だったんだっけ?」



