けどさすがにそう言い張るのははばかられて――だって笑満が巻き込まれている話だ――その事実は口にしなかった。
「あと、私が二股なんてありえませんので」
「あ、そうだよな。何気に咲桜も神――あいつ大すきだし」
「何気じゃなくて本当に大すきですよ」
その言われ方も不満で言い返すと、先輩は「わりーわりー」と笑った。
「どうしたんですか? ここ一年校舎ですよ?」
私たちが昼食によく使う中庭は一年校舎から近い場所なので、上級生はほとんど見ない。先輩は一個上の二年生。
「うん、笑満ちゃんと――その、一緒に昼飯とか思ったんだけど、もう食い終ってるよね」
あはは、とから笑いする遙音先輩。私が笑満を見ると、瞬時にその頬が染まった。
「いえ――まだ食べ終わってないのでどうぞ笑満を持って行ってください」
「ちょ! 咲桜何言ってんの!」
勝手に笑満の分の包みを閉じて笑満ごと先輩に押し付けると、今度は笑満は顔全体を真赤にさせて叫んだ。
「笑満だって私をあげるとか言ったじゃん。お返し?」
「ああああれは! いいの!」
恥ずかしさに叫び倒す笑満。
先輩は、笑満が言ったというその意味がわかったらしい。
なんとなく納得したような顔つき。
笑満は早々に、私たちの仲を認めていた。
「じゃ! じゃあ遙音くんもここで食べようよ!」
「えー、いいじゃん。二人で行ってきなよ」
なかなか笑満も引かなかった。けど、日頃のお返し時だ。
ん? ふと視界の端に頼が映ったんだけど、おかずをつまんだお箸を宙に浮かせて、口を半開きにした格好で固まっていた。
……また寝てんのかな。放っておこ。



