流夜くんが私の部屋に入ったことはなかった。
初めてうちに来た時は扉のとことで話しただけだったし、ここで寝るかと訊いたときはすぐさま却下された。……来てもらいたいなー……。
もし、流夜くんがまたここを訪れてくれたら、今度は部屋にも来てもらいたい。そして、流夜くんの存在が幻ではないと、ここにいたという証拠がほしい。
そうしたらきっと、もっと強くなれる。
流夜くんが関わっている仕事は、何より一刻を争うものだ。例えデートをすっぽかされても、流夜くんが事件に向かうことを選んだことを肯定出来る。応援も出来る。……でも、だからと言って、淋しさがなくなるわけではないみたいだ。
……今のうちから、慣れておかないと。
流夜くんとは、ずっと一緒にいる覚悟を固めているのだ。
この先にこれ以上離れていないといけない時間がやってくるかもしれない。それでも、淋しさを理由に別れるなんて、もう出来っこない。
この恋を貫くなら、自分の気持ちは自分で護っていかないといけないのかもしれない。
私の心は、流夜くんが護ってくれているから。
流夜くんを大すきだという気持ちは、世界にだって譲れなくなっている。
「……よし、ご飯作ろう」
気合いを入れて立ち上がった。
流夜くんのいない今だからこそ、自分に出来ることをしよう。
流夜くんには、逢えない淋しさばかり全面に出してすがる姿より、自分のすべきことをして、笑顔で流夜くんの帰る場所を作っている、そんな存在になりたいと思う。
……今はまだ、難しいけど。
淋しさを隠すことは出来ないから、少しは泣き言を言ってしまうかもしれないけど。
神経を尖らせなければいられない現場にいる流夜くんが、帰ることを望む場所になりたい。
私だって、自分のところに流夜くんが帰って来てくれることが嬉しいから。
私の帰る場所が、もう流夜くんの傍らであるように。
淋しさに、流夜くんを信じる気持ちを上書きして。