リビングのテーブルに、だうーんと項垂れていた。流夜くんに逢えなくなった……。
ライトがついたままのスマホには『流』という名前から届いたメッセージが開かれたままだ。
この名前は、流夜くんからの提案で偽名を登録している。
私の登録名を名前から一文字とって『桜』にしてもらったから、じゃあ流夜くんは『流』かな、って。私から言ったら、すごく複雑そうな顔をされたけど、『夜』よりはいい、と言われた。
そういえば、『流』って書いて『ながれ』って読む有名なモデルさんがいたな……『夜』って名前のカッコいいモデルさんもいたのを知っている。
そんな中で流夜くんが一番カッコいいと思う、彼氏に重症な奴とは私だ。
……やっぱり流夜くんらしいよなあ……。
テーブルにほっぺたを直につけて腕を垂らし、そんなことを考えてみる。
流夜くんが事件に関わる位置にいるからこそ、私は『流夜くん』と出逢えた。
二人でいるときだって、新聞や専門誌らしきもの、パソコンに向かって真剣な瞳をしている。
それが大すきなんだけどなあ……。
神宮先生には見られない凛然としたカッコよさに、何度惚れ直しているか。
同じ空間にいることをゆるされた私の特権。
強い眼差しの流夜くんを見る位置を、独占出来る。その横顔が大すきだった。
……すっごく優しくなるかおだって。
私が呼びかけなくても、ふとこちらを見る瞳は、表情は、それまでと全然違ってくる。
それまで宿っていた三日月のように鋭い光から、満月に薄い衣がかかったような柔らかさの光の瞳。
瞬き一つで、流夜くんは雰囲気まで変えてしまう。
咲桜、おいで。そう呼んで、手を差し出す。私がそれを取らなかったことはない。
導かれるように手を重ねて、驚く間もなく抱き込まれてしまう。
流夜くんならぜんぶ、大すきだから……。
今日淋しいのは、自分を優先してくれなかったことではない。
それが、多忙な職業だとわかっている。ずっと在義父さんの背中を見て来たのだから。
……ただ、逢えないことが淋しい。
昼間、宮寺先生が現れた件で旧校舎に近づけなかった。流夜くんの担当授業もなかった。姿を見られたのは宮寺先生ぶっ飛ばし連行のときだけだ。
今までが逢え過ぎていたのかな? 普通の恋人はもっと遠いものなのだろうか。
……そういえば……。