「咲桜。咲桜から言わなくても、神宮の考えなんてこいつらには筒抜けだから隠す意味ねーよ」
先輩が投げやりに言う。
「……そうなんですか?」
私の返事に応えたのは吹雪さんだった。
「大体はね。で?」
「……吹雪さんとあまり仲良くなるなって」
「ぶはっ! りゅうがふゆに妬いてるー!」
バシバシ椅子を叩いて笑う降渡さん。吹雪さんもくすくす笑ってるし。先輩も吹き出したのが隠し切れず、しゃがみこんでしまった。
……こういう反応がわかっているから言いにくかったんだ。流夜くんのからかいネタが増えてしまった……。
「流夜くんってほんとべた惚れ込んでるよね」
唯一、笑満だけが真面目に反応してくれた。
「んー、そういう意味でもないみたい。なんかね、私が吹雪さんに似てるから仲良くなると面倒だって言われた」
「彼女相手に面倒扱いかよ」
復活した先輩から冷たい一言。
「俺はわからないでもないけどなー」
降渡さんが椅子につきながら言うと、吹雪さんはカウンターに頬杖をついた。
「咲桜ちゃんが僕に似てたら面倒だよ。間違いなくね」
「そりゃ、お前が一等面倒人間だからな」
降渡さんが言うと、吹雪さんがにっこり微笑んだ。人を射殺す微笑だった。
私の隣で笑満が息を呑む気配があった。これが春芽吹雪か……! と。
私は、まだまだこんなもんじゃない、という意味で笑満に苦笑して見せた。
「降渡さん、笑満のこと知ってたんですか?」
一応訊いてみる。先ほど先輩が、『知ってること訊くな』と言っていたから。
「知らねーわけねーよ。神宮の女の親友なんて。雲居も春芽も気になる存在過ぎるから」
先輩がカウンターの中から答えてくれた。……のはいいけど、『神宮の女』て……。言い方。顔が熱い。またドクドクしそうじゃないか。
「遙音ばらすなよー」
降渡さんがつまらなそうな声を出す。
「俺は笑満ちゃんには隠し事しない主義なんで。笑満ちゃん、雲居不良探偵なんだけど、腕はあるから。警戒はしなくていいけど、要注意人物の一人だから」