……面倒くさいことになった……。

保健室を出て、空き教室に入った。声のないところで少し落ち着かないといけない。

宮寺が来ること、意識を払っていなかった。それは俺の失態だ。申し開きもない。

ただ俺が教師をしていて、そこに宮寺が来た。昔の縁で今も睨まれている、それだけならばいいのだが……今は、俺には咲桜がいる。

咲桜との関係を護り、同時に宮寺も相手どらなければならない。

両方ともやれる気概はある。問題はない。

……きついのは、学内で咲桜に逢える時間が減ることが目に見えていることだった。

俺が旧校舎に入り浸っていることなど、宮寺ならすぐに知れることだ。

そこに咲桜が頻繁に出入りしていれば、どういう関係かと疑うだろう。それは避けたい。

そうなると、咲桜にしばらくは旧校舎へ来ないよう言うしかない。

……自分は日義の場合と違って咲桜に言えないこともないから、不安にさせることはないと思うけど――危ないのは自分だった。

咲桜に逢いたくて。

もう放課後。咲桜が旧校舎まで来ることもあるから、今日は来ないように連絡しておこう。

万が一連絡が遅れて宮寺に見られたら、咲桜への説明の前に一つヤマが生じる。

メールにしようとして、何となく通話ボタンの方を押してしまった。あ、やべ。

『はいっ! 咲桜ですよ!』

……若干咲桜のテンションがおかしい気がしたが、今のところは無事なようだ。

危険はあったけど、やはり電話してよかった。咲桜は声だけでも癒しだ。

「咲桜、すまないが今日は旧校舎に来ないで、真っ直ぐ華取の家に帰れるか?」

『うん? 何かあったの?』

「……俺の昔の知り合いのことで、少し話さなければいけないことが出来た」

『それって宮寺先生?』

「……知ってたか」

驚きはあまりない。

宮寺が現れたとき、咲桜も離れてはいたが廊下にいた。

話しかけて来た生徒より、咲桜にばかり意識は向いていたのも事実だ。