流夜くんが手にしていた筆箱が宮寺先生の顔ギリギリに飛んで、壁にぶつかって、落ちた。
近くにいた生徒も私も笑満も、沈黙してしまった。
手早く文具を回収した流夜くんは、その間に宮寺の首根っこ摑んで無理矢理連行していく。
「え……神宮先生……?」
楽しそうに話していたところを意味のわからない退場をされて、気の抜けた声しか出ない様子の生徒たち。
私も一瞬呆気にとられたけど、明らかに流夜くん――わざとやった?
「笑満、保健室行こう」
「え、入れるのかな?」
「大丈夫。裏廻る」
笑満を導いて、一度校舎を出てから保健室の裏手の窓の並びに廻った。
――ところで、死角になる場所に流夜くんを見つけた。
やばっ。笑満を制して、壁に隠れるように身体を低くした。
「おーい、離せよ神宮」
呼ばれて、流夜くんは引きずっていた宮寺先生の、今度は胸倉摑み上げて壁に押し付けた。
……え?
「何でお前がここにいる」
……『神宮先生』の仮面がまるっと剥がれてしまっている。
知り合いなのかな?
それにしても声が怖い。初めて聞く、低い響きだ。
吹雪さんたちに対する様子とも全く違っていて驚いた。
鬼気迫る様子の流夜くんに、宮寺先生はのんびりと答える。
「今度の講師、俺」
「……ちっ」
今度は舌打ち⁉
一体どうしたの。
また流夜くんが宮寺先生を引きずって歩き出したので、その先は保健室だろうと見当をつけて笑満に肯いて見せた。
校内と校外では、造りの所為で私たちの方が先につけるはずだ。
ショートカットして走った保健室にはまだ流夜くんたちはいなかった。
「どうしたの、咲桜ちゃん」
夜々さんが気付いて窓を開けてくれた。
「今、流夜くん来ると思うから、私たちがここにいるの黙っててほしいの」
「? 神宮さん? わざわざ敵の牙城の入ってこないと思うけど……」