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「神宮先生―っ」
またはっとした。
同じ声――だ。
流夜くんが廊下を向かい側から歩いて来たのは気づいていたけど、今までそう親しくもなかった先生に飛びつくのも変に思われるかと思って学内では必要以上に近づいてはいなかった。
一緒に廊下にいた笑満の顔も、私と同じことに気づいたと言っている。
流夜くんは――『神宮先生』は立ち止まって丁寧に答えている。
先ほど感じた焦燥感が――今は薄い。
完全にないわけではないけど、それよりも自分を大事にしてくれる、大事だと言ってくれる流夜くんに心を寄せればいい。
……学校での流夜くんだって、実は大すきだけど。偽モノでも、それが流夜くんなら大すきだった。
「あっ! 宮寺(ぐうじ)先生!」
ぐうじ?
聞き覚えのない名前。
声は、流夜くんのところにいる女子生徒からだった。
その先を見ると、若い男の人――流夜くんと同年くらいかな?――が、いた。
藤城の教師には聞いたことのない名前……笑満に顔を向けると、
「あの人だよ。次の講師」
と教えてくれた。そういえば、と思い出す。
笑満が言っていた遺伝子学の専門家、名前は確か、宮寺琉奏(ぐうじ るかな)先生。
「宮寺先生ですよね」
流夜くんと話していた女子たちが、その人に話しかけた。あの人が宮寺先生か。
背丈は流夜くんよりは少しだけ低いくらいだろうか。
細身で、スタイリッシュな黒ブチフレームの眼鏡をかけている。
「よく知ってるね。はじめまして」
「そりゃもう! 藤城の先輩の中で有名な方ですからっ」
女子生徒は、声に若干興奮が見られる。
へー。私は知らないけれど、そんなに慕われる人なのだろうか。
宮寺先生は女子生徒たちの近く――流夜くんの近くに来て、にっこり笑った。
「久しぶりだな。神ぐ
ガシャンッ――
「あ、すみません手が滑りました。ぶつけてたらいけないので保健室行きましょうか。連れて行ってあげますよ」
「………」
流夜くん……?



