「き、昨日って言えば――なんか疲れてたよね? いつもよりお仕事多かったの?」
勿論、『教師』の仕事ではない方を咲桜は指している。
「いや――まあ、俺の領分外なことなんだけど、ちょっとやらなくちゃいけないことが出来て。と言うか押し付けられて」
「そうなの? ……大丈夫?」
「問題ないわけじゃないけど、そちら側の頼り手もいるからな。大丈夫」
「………」
少しでも咲桜に触れていたくて、右手を絡め取る。咲桜が顔を俯けた。
恥ずかしさもあるのだろうけど、見える口元がそうではなかった。
「何か気になることあるか?」
「え、と……訊いてもいいの?」
「ああ。事件関係上喋れないことは、ちゃんとそうだって言うから。今は、どうしたんだ?」
咲桜は、すうと軽く息を吸い込んだ。決心するみたいに。
「……頼り手、の方が……羨ましいなあ、と」
「……相手側、仕事押し付けられるだけだぞ?」
どこが羨ましいんだ? 咲桜の羨望の意味がわからない。
やることが多いときは頼みあってきたからお互いもう断りもしないけど、更に仕事が増えるだけで羨ましがられることではないような。
「………頼ってるって、はっきり言える方が、……流夜くんにとってそんな存在であられることが、羨ましいなあ、という意味、です」
「………」
相変わらず、恋愛脳というのは複雑だ。
でも、咲桜の言った意味がわかってしまった自分の頭も、もうそうなのだろう。
「咲桜以上に頼れる奴なんていないけどな」
「でも、その方たちだって……」
「昔っからつるんでるからなー。相棒だとは言われるけど、咲桜とは大事の大きさもなにも、違い過ぎる」
咲桜以上のものは、ない。
そう囁く。