「『神宮先生(あれ)』は、あの人が意図的に作り出した人格だ。偽モノに恋愛するなんてバカみたいじゃね?」
あの人の本当は咲桜のものなんだよー。頼が投げやりに言うと、笑満は苦笑をもらした。
「大体さ、あの人優しいだけじゃないだろ。俺、記憶が飛ぶほど殴られる危機だったんだから」
「えっ、何それ」
私が声をあげると、夏島先輩にでも訊いてー、と、最後は寝惚けた声で言って、また突っ伏してしまった。
にせもの。
本物の、今は恋人。
「……ありがと」
小さな声で礼を言うと、「んー」と、頼から寝言のような返事があった。
笑満を見ると、微笑んでいた。頼の言葉を肯定するように。
「笑満大すきっ」
ぎゅうっと抱き付くと、笑満は慌てたように声をあげた。
「わわっ! もー、咲桜も女の子だったんだねー」
「どういう意味かな?」
「可愛いという意味です」
顔を見合わせて、笑い合う。
流夜くんは、私の前では本物でいてくれる。私は、そんな流夜くんが、すき。
「そういえばさ、特別講義の張り紙、見た?」
「ん? そんなのあったっけ?」
笑満の言葉に首を傾げる。
藤城学園は進学校なので、卒業生を招いての特別講義は頻繁に行われる。
「昼休みに張り出したばっかりみたい。今度は遺伝子研究してる人が来るんだって」
「……楽しそうだね、笑満」
「あたしそういうのすきだから」
……学年主席の頼と、学年トップクラスの成績の笑満。私は成績では二人とは差があった……。
怠惰な頼と違って、笑満は知的好奇心が強い。
「サボったらゆるさないから」
「……はい」
笑満は勉強好きの真面目っ子だった。