流夜くんほど生きていないから、私はまだキライだ。
流夜くんほどの人と出逢えたのに、まだキライだ。
恋人で、大すきな人で、愛してると言ってくれる人で、愛していると言える人がいても。
私はこの世界が大っ嫌いだった。
この世界にしか、流夜くんはいないのに。
ここにいなかったら、出逢えていなかったのに。
本当に? 流夜くんは言ってくれた。在義父さんの娘でなくても、自分は咲桜のことをすきになっていたと。
私だって。私だって、流夜くんがずーっと先生という対象でも、すきになっていた。そう言いきれる自信、あるよ。
なんとなく感じる、波の存在。
「……流夜くんすきなおまけに」
おまけでもいいから、この世界を、すきになりたいと思った。
流夜くんがいて初めて、桜の花を綺麗だと思えたから。
こうやって――その腕に抱き留めてくれる存在のありがたさを、噛みしめながら。
「おかえりなさい!」
「あ……ただいま……」
言った直後、流夜くんは夜目にわかるほど顔を赤らめた。
「? どしたの?」
「いや……随分言ってなかったから……」
「なにを?」
「……気にするな」
「今のは気になるよー」
バツが悪そうにそっぽを向く流夜くんの腕を摑んで、早く! と家の中へその手を引いた。
箏子師匠の注意は――ちゃんと、聞いておくよ。おけるかな?
だって、『ただいま』って言って私のところへ帰って来てくれたことが、嬉しくて。