「健康なのは良いことです。が、元気過ぎるのも問題です。中庸(ちゅうよう)というものを、お前は学びなさい」

「……はい?」

いつもと同じ、叱るような口調だったのに、何故か中身がいつもと違う気がして疑問符のついたような返事になってしまった。

「お前は――結婚したら、どうするつもりです」

「え、二年後の話ですか?」

「まるっと三年はあるでしょう。神宮さんの、専業主婦に落ち着く気ですか?」

「えーっと……」

そこまで考えていなかった。

ただ、流夜くんと結婚して家族になる、というところまでしか考えていなかった。

職業とか、考えるものの中にカウントしていなかった。

「あれほどの才気の方の妻ならば、それが良いかもしれませんが、お前はまだまだ子供です。在義に護られて世間を知らなすぎる。一度は社会に出た方がいいと、私は思いますけどね」

「―――」

社会。

仕事。

「そうして――早く在義を解放しておやりなさいよ」

「………」

黙って頭を下げた。箏子師匠は振り返る気配もなく華取の家を出て行った。

扉が閉まってしばらくして、やっと顔をあげた。

「……あー、久々にきたなー……」

箏子師匠の襲撃。

ぐしゃっと髪を掻いて、目線が落ちた床を見つめる。

大丈夫、人に嫌われるのは慣れている。大丈夫、人に疎まれるのも慣れている。大丈夫、人に忌まれるのだって慣れている。全部全部、華取咲桜は慣れっ子だ。

「………」

だから、在義父さんや夜々さんや、笑満や頼、親しくしてくれる人は奇特で大事で。

優しさをもらえば、優しさを返したくなる。

大丈夫。

だいじょうぶ。

落ち着いて、私の心。私には私がいてあげるから、一人にはしないから。流夜くんがすきだと言ってくれた私を、私は護りたいから。

「……大丈夫ね? 咲桜」

今日も、生きていけるね?