「―――」

くる。

「せめて在義が結んだ縁を、無下にするんじゃありませんよ。この見合いの話、お前には拒否権などありませんからね」

「………」

いや、あのこれはマナさんが結んだのであって、在義父さんは私と一緒にはめられた側なんですけど……。

とは、言いたいけど言わないでおいた。詳細まで知られて、流夜くんに文句つけられたくないし。

「それを、言いに来たんですか?」

「ええ。あと、あまり遅くまで殿方を引き留めないものですよ」

嫌です。流夜くんが帰っちゃうのは淋しいから、本当は在義父さんの言ったようにここに住んでほしいくらいなのに。

……これも、口には出来ない。

「在義はお前に甘いですからね。問題が起こってからでは遅いのです。事前に防ぎなさい」

「………はい」

畏まって、小さな声で返事をする。

「わかっているならいいのです。それでは、わたくしはこれで」

さっと着物の端を揃えて、箏子師匠は立ち上がる。習慣で、玄関まで見送るために遅れてあとをついた。

下駄を履く前に、ふと箏子師匠が私を見上げて来た。

「しかしお前は大きくなりましたねえ……」

「え、そうですか?」

最近、流夜くんや降渡さんや、背の高い人が周りにいることが多いから失念していたけど、私は同年代女子に比べて背が高い方だった。学年でも一番高いし。

すぐに箏子師匠は正面に向いた。