「………」
私は背中に汗をかきながらキッチンに向かっていた。
急に来たかと思えばどうしたのだろう、師匠(せんせい)は。
私にとっては作法や武道の師匠であるお隣の箏子(ことこ)師匠が、急にやってきたのだ。
お茶を淹れるだけでも、師匠を相手にするのは、娘の夜々さんとは全然違う。
うお、手が滑るっ。
なんとかお茶を盆に載せて持って行く。
今日も綺麗に着物を着こなしている師匠は、瞳を細めてこちらを見て来た。
「相手の方、なかなか良い方ではないですか」
「え……」
相手? なんの?
きょとんとしていると、箏子師匠は咳ばらいをした。
「神宮さん、といいましたか。在義が認めただけはありますね」
「………」
相手の方って――そういう意味⁉
「えっ、あっ、はいっ! とっても素敵な方ですっ」
勢い余って前のめりになって宣言した。箏子師匠は目を眇(すが)める。
「在義の知り合いならば、職業面ではいささか心配がありますが……」
「それはばっちしおっけいです! 流夜くん強いし無敵だし!」
「……お前、少し性格変わりましたね」
「流夜くんのおかげですっ」
呆れたような箏子師匠に、胸を張って宣言する。
――胸を張って宣言でもしていないと、箏子師匠に負けそうになるから。
「それはよいですが――お前は少し自分の立場を弁えなさいよ」