「絆も言いくるめられてなんかねーよ」

「はいはいそうだね。絆ちゃんもカウントしておこう。それで――ん、盗聴器の類はなし。正統派人間の琉奏は考えもしないか……。ま、相手が誰か、は、ばれてないね」

「だな。生徒だって知ったらぶん殴って来そうだもんな」

……宮寺は咲桜のことを、『相手の女性の方』という言い方をしていた。

生徒で、しかも後輩にあたる子が俺の恋人だと知っていればそういう言い回しはしないだろう。

カマをかけていたのだとしても、あっさりカマにかかっている俺をそのまま残してはいかない。

何かしら、証拠を握ろうとするだろう。

それでも先ほどは、本当に忠告だけで帰って行った。忠告がトドメだったけど。

「……俺は口を開けば事態を悪化しかさせないのか……?」

本気で悔いていると、吹雪はへらっと笑う。

「今頃気づいたの?」

「―――」

トドメをさした上に塩塗りこんできやがった。鬼かこいつは。

「流夜は、そうだよ。口を開けば事態を悪化しかさせてないよ。そんだけお前が他人に無関心ってことなんだけどねー」

龍さんコーヒー、と俺への提言はついでのように注文する。

「まー、気を確かに持てよ? 琉奏も誰かまでは気づいてねーし、あいつが藤城に行くのもあと何回かなんだろ? その間気をつけてりゃ大丈夫だろ」

「………そうだけど」

それじゃ駄目なんだ。

咲桜にきちんと言った。宮寺の誤解は解くと。宮寺が誤解したままでは、咲桜の立場がない。

だから、咲桜と付き合っているとは言わないまでも、学生時代は降渡と吹雪しか知らなかったことを、ちゃんと話すと。

宮寺は正直すぎる性格ゆえ、隠すことが苦手だ。

限度は見計らいながらだけど、話せることは総て話そうと決めて今日に臨んだのだ。

それが一方的に撃沈されて終わっては意味がない。

「――降渡。一つ、頼みがある」

「ん? それは何? 幼馴染として? それとも探偵として?」

龍さんから渡されたカップを傾けて、降渡は愉快そうに唇の端をあげる。

「両方だ」