「何より、咲桜に被害があったりしたら一番嫌だからな。そんなことをする奴ではないとわかっているけど、――そうだな。本来なら、俺より宮寺の方が教師に向いているくらいだ。機会があったら――…………なんでもない」

「? なんでもないの?」

「ああ。なんでもない。気にするな」

「うん?」

「それと、今日のことは別に自責したりしなくていいからな。宮寺から接触があって、咲桜が在義さんの娘だって認識されたなら、少なくとも咲桜に害が及ぶことを、宮寺はしないだろうから」

「………そうなの?」

「ああ。そういう尊崇を集める人なんだ。在義さんは」

「………」

尊崇。

「そう、だよね……父さんすごい人だもんね」

「……咲桜?」

……私の声の不自然な揺れ方も、流夜くんにはわかっただろう。

「“在義父さんの娘”って、一種ブランドなんだよね。今日わかった」

「……咲桜? どうし

「だって、“父さんの娘”じゃなかったら、宮寺先生は私に話しかけてなんてしてこなかった。流夜くんにも嫌な思いさせなかった」

「咲桜、それは

「でも、一番に、私は“父さんの娘”じゃなかったら、“流夜くん”と出逢えてもなかった……!」

気づいてしまった。

《今ある現実》の、大前提はそれだった。

マナさんの画策だって、『権力的利用価値のある華取在義の娘を護るため』から始まっている。

そして、在義父さんの娘が自分ではなかったら、流夜くんは別の誰かと出逢っていた。

学校で出逢っていても、流夜くんは在義の娘だから不用意に近寄らない、と言う風に認識していたそうだし、それすらもなかったら、私はただの生徒だった。

全部ぜんぶ、流夜くんとの関係は、それがないと始まらない。

「……在義さんの娘じゃない方がよかった?」