「開けるよ! いきなりっ
ん、と口をふさがれて詰まった声を出す。
「んにゃ!」
「お前面白いなー」
形勢逆転。完全に流夜くんが主導権を握っていた。
シートベルトはもう外してあるから、私を抱き寄せるのは簡単だった。
「りゅ! こういうことするときは事前に言ってよ!」
「先に言ったらお前を驚かす楽しみ減るだろ」
「耳元で言わないでー!」
しっかり抱きしめられているので、流夜くんの口は私の耳元に近い。
吐息も感じる距離だ。こ、これは額がくっつくのとどっちが近い……⁉ 私の動揺が、流夜くんにはありありと伝わっているだろう。
「どうだった? 宮寺の講義は」
「え? あ、うん。……細部まではわからなかった」
「……わからなかったのか」
「笑満や頼にはわかんだろうけど、私にはまだまだで――でも、意味がわからないままで終わりたくないと思った」
宮寺先生は、遺伝子研究のスペシャリストだ。噛み砕いての説明はわかりやすかった。でも、予備知識の問題だろうか。ところどころで躓いてしまう。
――そのままでは、いたくないと思った。
「宮寺のことは、咲桜まで警戒しなくていい」
「え? でも……」
「俺の責任で、今も宮寺が誤解していることだ。ちゃんと、誤解解くようにする」
「……今までは解けなかったの、時期の問題とか?」
「いや? 別に誤解とかされたままでもどうでもよかったからほっといただけ」
「………」
出た。たまに出る流夜くんの頓珍漢。そして豪快。
「でも、今は違う」
「………」
そろりと目線を上向けると、穏やかな表情の流夜くんと視線がぶつかった。
「俺が惚れたのは唯一、咲桜がいるからな。これ以上誤解されたままでは困る」
「………」
何かをこらえるように口を引き結んだ。恥ずかしさが臨界点、だった。



