頭の中で、断片的に言葉が並ぶ。たぎっていた心臓が、今度は熱く鼓動する。顔も。

「……何にやついてる」

「ぅえっ、ご、ごめんなさい?」

緩むのが自分でもわかってしまう。慌てて両頬を手で押さえる。

「……俺今怒ってんだけど」

「ごめんなさいー」

にまにましている顔では謝っても説得力もあったもんじゃないだろうけど。

「……考えられたのに対処もしないで勝手に怒って、すまない」

「え? 思いついてたの? 宮寺先生のこと……」

私も一瞬真顔になる。

先手先手を打つのが流夜くんだ。今日の在義父さんのことも、笑満が話しに行くまで触れられもしなかったから、予測していないものだと思っていた。

「………あいつが在義さんに憧憬(どうけい)しているの、わかってはいるからな。予想していて当然だった。完全に俺の失念だ」

「そうなんだ」

「……宮寺は、俺がこちら側へ引きずり込んでしまったような感じだから……。本来なら、もっと普通の生き方が出来ていたかもしれないのに」

「? 流夜くんの生き方って普通じゃないの?」

真顔で問うと、流夜くんは固まった。

「……あまり普通ではないな」

「そう? よくある話ではないと思うけど、珍しい話でもないんじゃない?」

「………」

流夜くんは沈黙してしまった。

先ほどは直前で引っ込めた流夜くんの指が、今度は伸びる。

「そうかもな」

柔らかく温かい頬に触れられると、ドキドキが再燃してきた。

流夜くんがキスをした瞬間と、私が目を開けた刹那が重なった。

「!!!! りゅ!」

「あー、目ぇ開けた」

泡喰った私に楽しくなったように、からかい口調で言う。