そんなテンションの高い私の心の声を知らない流夜くんは、難しい顔のまま前を見据えている。
「………」
………反応がない。
「あの、ね? 気を悪くするかもしれないけど、何だか警戒するほど悪い人には思えない。勿論、現状で付き合ってるのを知られないように用心するのは、そうだと思う。でも――」
「宮寺が悪い奴じゃないことは、俺も知っている」
「そうなの? じゃあなんで――あ、やっぱそこに戻るのか。生徒と付き合ってたらまずいもんね。んー、だったらいっそのこと、宮寺先生がいる間だけでも
「一時(いっとき)だって別れるとか出来ないからな」
怒ったように、焦ったように言われて、目をぱちくりさせた。
「え。流夜くん、短い時間でも別れるとか考えてんの?」
「は? 違うのか?」
「うん。宮寺先生が父さんを知ってるなら、同じく面識のある流夜くんと、私も父さんを通じて知っていたって設定にするのはどうかな? て言おうとしただけ」
この案は笑満からの提案だ。
在義父さんという、『咲桜の父』を介しての知り合いでもあるならば、そこから付け入られる可能性もないか、という。
しかしそれは、体裁、にもなるんじゃない? と電話で言われた。
「………」
流夜くんははやとちりしてしまったみたいだね。
ちょうど赤信号になって、流夜くんはハンドルに額を押し付けた。
「……少し待ってくれ」
「? うん」
少し待った。元より赤信号だから待つしかないのだけど。



