ため息とともに出たふとした呟きは、両方だったように聞こえた。
……愛子、未だに絡んでいるのかよ。
そして滅多に見せない在義さんの境界が揺らいでいた。
在義さんは公式な場では――咲桜に対しても――愛子のことは『春芽くん』と呼んでいる。
二人は、在義が警視庁時代のコンビで(龍さんは所轄だった)、在義さんも龍さん同様『愛子』と呼んでいるのは知っている。
「まあ、親が認める仲だと押し通すことも出来るが、学校なんかにはばれないように上手くやりなさい。あと、咲桜に少しでも危害があったら即刻反対に廻るからな」
「……はい」
宣告された。認める言葉にも脅しが入るんだな……。
「私より大敵は箏子先生だろうな。朝間の家の人も納得させないと咲桜と結婚は無理だろうね」
「……なんでそこまで絡むんですか?」
朝間先生が在義さんの幼馴染とはいえ、父以上に難関とは?
「私が仕事柄咲桜を預ける時間が多かったのと、あと単に世話焼きだから」
「……朝間先生、咲桜のこと溺愛してますよね……」
時々在義さんより親バカかと思うくらいだ。
「そういうわけだ。あちらの懐柔もがんばりなさい」
……在義さんの笑顔、清々しいのに昏いものが見えたのは何故だ。